これも1つの感謝の気持ち

● 大切にしたい かけがいのない日々

「うっわー♪ やっぱり来てよかったなっ、シア!」
「そうだね、サクヤ。天気にも恵まれて、気持ちのいい場所だね」
 サクヤとシアは今、さえずりの泉にきていた。
 泉に小鳥が舞い降り、水面の波紋がゆっくりと広がっていく。
 二人の前には、絶好のチャンスといわんばかりの美しい光景が広がっていた。

 と、狼の声が響いた。
 サクヤが連れて来たペットの2匹の狼。その2匹が、仲良く泉の畔を走り回っている。
 それだけではない、シアもペットの狐を連れてきていた。
 たまにこうして、外で遊ばせるのも良いから。
 どちらが先に言い出したかは、もう忘れてしまった。
 とにかく、それがきっかけとなり、女神の木の下を経由して、ここまでたどり着いたのだった。
「ゴハンっ、ゴハンっ、お弁当〜♪ ほら、早くこっちに来いよ! 一緒に弁当食おうぜ!!」
 気が付けば、サクヤは一人、張り切って良い場所にピクニックシートを広げていた。
「全く、こういうときは早いんだからな……」
 シアは、はしゃぐペット達と共に、サクヤの元へと歩き出した。

「うーん、美味いっ! やっぱりシアの弁当は最高だっ!」
 嬉しそうにお弁当を頬張るのは、サクヤ。
「そうかい? それは良かった。朝早かったから、間違えなかったか、ちょっと心配だったんだよね」
「え?」
 そのシアの発言で、サクヤの口と手が同時に止まった。
「……冗談だよ」
「こ、こらっ! 脅かすなよ。びっくりするだろ!」
「ごめんごめん」
 二人は軽く叩き合う。
「……あっ、忘れてた! 俺、これ持ってきてたの忘れてたよ」
「何?」
 サクヤが取り出した水筒。
 そこから出てきたのは、暖かいココア。
 コップに並々と注いで、サクヤは嬉しそうに渡した。
「美味いぜ?」
「本当?」
「嘘は言わないぞ」
 そんなやりとりをしながら、シアは暖かいココアを一口。
「……美味しい」
「だろ?」
 満足げに微笑むサクヤ。
「ありがとう、サクヤ」
「どういたしまして。シアも弁当、ありがとな」
 互いに微笑みあい、またお弁当を食べるのであった。

 そろそろお弁当も空になってきた頃。
 シアはお弁当を片付けながら、サクヤを見た。
 ペット達と泉の畔を走り回っている。
 こんな時間が長く続けばいいのに……。
 そう思わずにはいられない。
「あ、わりぃー、気づかなくって。片付けしてたんだな。俺も手伝うぜ」
 そういって、サクヤがシアの所に戻ってきた。
「サクヤ……」
「何?」
 持ってきたものを片付けながら、シアがサクヤに声をかけた。
「何があっても、これからもずっと一緒にこんな時間を過ごしていけるといいな」
 その言葉に、サクヤはきょとんとしてしまったが。
「いけるといいな、じゃなくて、していこうぜ、だろ? 俺とシアと皆とでさ」
 その言葉に今度はシアがきょとんとする。
「ああ、そうだったね。俺とサクヤと皆とで、だね」
 シアのその言葉に、サクヤは嬉しそうに瞳を細めた。

 気が付けば、もう夕暮れ。
 二人と3匹のペット達は、家路を急ぐ。
 彼らの帰る、暖かい家に向かって。


イラスト: オウヤカズキ