FairyLake〜風と狐と妖精の泉〜
● 疾風と妖狐の協奏曲
二人の男女が、ゆっくりと森を歩いていく。
「シルフィア、寒くないか?」
ドークスが隣にいるシルフィアに声をかける。
「はい、大丈夫です」
にっこりと微笑む。
実際、外の肌寒さよりも、組んだ腕のぬくもりの方が、遥かに暖かい。
側に居るだけで、幸せな気持ちになってしまう。
「寒かったら言ってくれよ。俺のでよければ、上着を貸すから」
「ありがとうございます」
彼の優しさを感じながら、嬉しそうに微笑む。
ゆっくりとした足取りで二人は、奥へ奥へと進んでいく。
このゆっくりとした進み方も、ドークスの気遣いゆえ。
お陰でシルフィアは、遅れる事無く、ドークスと同じ歩調で歩けていた。
「わゎ、綺麗な泉発見です♪」
シルフィアが見つけた泉。それがさえずりの泉であった。
さっそく、靴を脱いで泉の中に足を入れるシルフィア。
「きゃー、やっぱりまだ冷たいですねー♪」
シルフィアは、冷たいといいながらも、楽しそうだ。
そんなシルフィアを眺めがなら、泉の畔に腰掛ける。
(「あんなに楽しそうに……」)
楽しそうに遊ぶシルフィアを、ドークスもまた、楽しそうに眺めていた。
「ドークスさんも来ませんかー?」
振り向き、シルフィアが訊ねた。
が、聞こえていないようだ。にっこり笑って、手を振っている。
(「こうなったら……」)
シルフィアは、ぱしゃぱしゃと水に足を浸しながら、飛び跳ねるようにドークスの元へ。
そして。
ぱしゃんっ!!
シルフィアは泉の水をドークスにかけた。
「つ、冷た! いきなり何をするんだ!?」
驚くドークスにシルフィアは。
「そんなところでまったりしてると、干からびちゃいますよー!」
そういって、更に水をかけていく。
「おわっ!」
勝ち誇るような笑みを浮かべるシルフィアに、ドークスもまた。
「やられたらやりかえさないとな……」
不敵な笑みを浮かべ、応戦開始!
ここで、シルフィア対ドークスの水かけっこバトルが開幕したのである。
ふざけあって、互いにびしょぬれになった二人。
「そろそろ上がるか」
「はい、そうですね……」
そういって、泉から上がろうと歩き始めた時だった。
「あっ!」
泉の水に足を取られたシルフィアがバランスを崩し。
「大丈夫か?」
ドークスが抱きとめた。
不可抗力とはいえ、偶然、彼の胸に飛び込んでしまった事。
その偶然が、シルフィアに暖かい勇気をくれた。
心地よいぬくもりと、それを離したくないという熱い想いと……。
シルフィアはそのまま、ぎゅっと抱きついてきた。
「シル……」
シルフィアを呼ぶドークスの声が、かき消された。
いや、止まってしまったと言ってもいいだろう。
「どうぞ私を離さないで下さいね?」
それはシルフィアの心の中の想い。
「私はずっと離れた人を想い続けられる程、そんなには強く無いのです。傍に居て下さい。ずっと、ずっと。大好きな貴方へ、私が気持ちを届けられる様に」
それは願いのようにも聞こえた。
「シルフィア……ああ、離さない。シルフィアのこの手を、ぬくもりを、君自身を……」
元気付けるようにドークスから、シルフィアを優しく抱きしめた。
壊れてしまいそうな、シルフィアの体を優しく包み込むように……。
そして、ドークスは続ける。
「今日は誘ってくれてありがとな。シルフィアがくれたお菓子も凄く美味しいし……本当にありがとう」
そういって、ドークスはそっとシルフィアの唇にキスをした。
唇から冷たさを感じる。先ほどの水浴びで冷えてしまったのだろう。
けれど、二人にとって、それは熱いキスでもあった。
ささやかな幸せのとき………。
「くしゅん……」
それはあっという間に消えてしまった。
「あ……その、焚き木焚こうか?」
「は、はい……くしゅんっ!」
互いに残念な気持ちもするけど……けれど、これだけでも充分。
二人は焚き木の前で寄り添い、冷えた体を暖めるのであった。
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緑風の妖狐・シルフィア(a03552)
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若き疾風の狩人・ドークス(a12690)
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イラスト: 山本佳織