逢えてよかった♪

● 女神の木の下で

 ふわりと長い茶色の髪が揺れる。
 少し不安げに。
「少しでも会えたらって思ったんだけど」
 ミンは、もう一度、辺りを見渡した。
 ミンのいる所、それはランララの女神の木の下。
 数多くの恋人達が集まる場所でもあった。
「もうすぐ帰らないと……」
 寂しげな笑み。
 ミンは今、忙しい店を少し抜け出して、ここに来ていた。
 そう長い間、いられるわけではないのだ。
「ユリアスさん……」
 ミンは僅かな希望を胸に、もう一度、大切な人の姿を探し始めた。

「ミンさん、もう着いている頃でしょうか?」
 ユリアスは、やっと試練を乗り越え、女神の木にたどり着いた。
 大きな木の下で、ミンを探すユリアス。
「ユリアスさんっ!」
 と、遠くで声が響いた。
「ミンさん」
 ユリアスの顔に思わず笑みが零れる。
 ミンはユリアスを見つけて、すぐさま駆け寄ってきた。
「ん、よかった。今日はもう逢えないかと思っちゃった」
 そういって、ミンは持っていたお菓子を手渡した。
「私もミンさんに逢えて、嬉しいです」
「あ、でも」
 少し寂しげな表情を浮かべ、ミンは告げる。
「そんなに長くいられないの。もう少ししたら、店に戻らなきゃ」
(「店が忙しいんですね。でも、こういうのも悪くないです。らしいというか……」)
 そう思いながら、ユリアスは。
「構いませんよ」
 そういって、また笑みを浮かべた。
(「……そういえば、はっきりと『好き』と言ったことは無いのかもしれない……いい機会だし、はっきりと伝えよう……貴女を思っているんだってことを」)
 静かにミンを見つめているユリアスに思わず、ミンが声をかけた。
「ユリアスさん?」
 その声にユリアスは笑みで応える。
「ミンさん。私は貴女が好きですよ」

 時間にして、およそ10分くらい。
 幸せな時間はすぐに過ぎてしまう。
 ミンの作ったお菓子を食べているユリアスに、ミンは終わりの時間を告げた。
「そろそろ行かなきゃ」
「それじゃ、また後で」
「ん」
 ミンは元気良く走り去ろうとしたが、途中で戻ってきた。
「ユリアスさん」
「うん?」
 背伸びをしたミン。その唇がユリアスの唇に重ねられた。
「え?」
「ん、今日は逢えて嬉しかったの」
 笑顔でそういって、今度こそ走り去ってしまった。
 ユリアスは、半ば呆然としながらも、ミンを見送ったのであった。

(「短い時間だったけれど、それでもユリアスさんと今日を一緒に過ごせて良かった」)
 そんな想いを込めて送った口付け。
 短い時間であったが、二人だけの幸せな思い出ができたのであった。


イラスト: 右京みやこ