『食べてー♪』『……ふふっ』

● 母親の苦悩!?

「はい、お母様。食べてー♪」
 にっこりと笑ってクウェルタは手作りのチョコレートを差し出した。
 シンシアは微笑んで受け取り、手の中のクウェルタ曰くチョコレートなる物体を見詰める。
 愛娘の愛情がたっぷり詰まったチョコレートは、何とも珍しいチョコレートだった。チョコレートだと言われなければ判らなかったに違いない。
「(何故、チョコレートなのに煙を吹いているのかしら……)」
 母親と言う立場上、口に出しては言えない疑問を胸中で呟く。
 クウェルタが深夜、台所をひっくり返していたのはチョコレートを作るためだったらしい。
 チョコレートやらクリームやらの残骸を見つけたこともあったから、シンシアも覚悟していたのだが、実物のインパクトは想像のはるか上を行っていた。
「(何故、チョコレートなのに緑色の液体がにじみ出ているの……?)」
 チョコレートって緑だったのかしら、とシンシアは遠い目をした。
 頭の中をぐるぐると回る疑問を打ち消したのは、愛娘の甘えた声だった。
「ねね、早く食べて食べてー♪」
 
「あなたの愛が詰まったチョコを今ここで食べるのはもったいないから、取っておきましょうね」
 シンシアは顔を引きつらせながら穏やかに告げる。
 しかし、クウェルタは「え〜!?」と悲しそうな声を上げた。
「愛情たっぷりのチョコレートなのに、一生懸命作ったのに〜……」
 お母様のために味見もしないで全部包んだのに、と恐怖の増す言葉を紡ぎながら落ち込むクウェルタ。そんな娘を見ているうちに、シンシアも何だか、食べてあげないといけないような気分になる。
 拗ねていじけて泣き出しそうな顔のクウェルタが、ねだるようにちらりとシンシアを見上げた。
 そんな娘の髪を優しく撫でて、シンシアは腹をくくる。
「あなたも、私のために頑張ったのよね……ママも頑張る」
 ぐっと拳を握って、母親は意を決した。
 美味しいと信じきっているクウェルタは、母親に手ずからチョコレートを差し出した。
 シンシアの最後の記憶は、木漏れ日の差し込む女神の木とクウェルタの嬉しそうな笑顔になった。



イラスト: 上條建