『ぷいにゅー♪』『にゃーんこにゃーんこ♪』

● My dear daughter

「シンシアさん、これを貰っていただけますか？」
　これで何個目だろう？
　シンシアは両手にいっぱいのお菓子を貰ってきていた。
　しかも、どれもが女性からのである。
「こんなに貰ったら、太ってしまいそうね」
　沢山のお菓子を前に、シンシアは呟く。
「それじゃあ、太ったらどうですか？　お母様」
　ぷいっと明後日の方向を向いてしまうクウェルタ。
「あなたったら……」
　分かっている。
　クウェルタは分かっていた。
　綺麗なお母様。クウェルタの自慢のお母様だ。
　だからこそ、他の人から好感をもたれる事は、とても喜ばしい。
　こんなにもモテているという事実も認めない訳ではない。
　けれど……どうしても、だめなのだ。
　ずっとお母様と一緒にいて。
　ずっと大好きなお母様と幸せな時を過ごして。

　大切なお母様を、他の人に取られてしまった。

　そんないけない事を考えてしまう。
　お母様は『モノ』ではないのに。
　ましてや、わたくしだけのものではない。
　だけど、独り占めしたい。
　なのに、お母様は素敵なお祭りで、沢山のお菓子を受け取った。
　つまり、皆に気があるという事である。
　それが、なんだか悔しいのだ。
　腹立たしいのだ。

「そんなに拗ねなくてもいいじゃないの。あなたのママは魅力的と言うことじゃない？」
「それとこれとは別だもの」
　シンシアの言葉は、どうやら、クウェルタの機嫌を直す力はもっていなかったようだ。
　ふうっとため息をついて、シンシアは部屋の奥へと入ってしまった。
　その様子に更に不機嫌になるクウェルタ。
　と、シンシアが戻ってきた。
　その手には布が乗せられたバスケットが一つ。
「あなたにプレゼントよ」
「プレゼント？」
　眉を顰めながらバスケットの布をめくってみると。
「にゃーん」
　ぷるぷると顔を左右に振り、そして、クウェルタを見た。
「にゃあ」
　挨拶するかのように声をあげたのは、小さな子猫。
「子猫……」
「あなたが気に入る子猫を探してきたのよ」
　そういって、シンシアは微笑む。
　それはまるで、特別の魔法のような響きがあった。
「わたくしの、ために？」
　その言葉にこくりと頷くシンシア。
　シンシアから受け取った子猫をそっと抱いて、ほお擦りしてみる。
「にゃーん」
　猫もクウェルタも互いが互いを気に入っていた。

　特別なプレゼント。
　お菓子ではない、特別な……。
「わたくしは、特別？」
　思わず訊ねる。
「はいはい、特別はあなただけよ」
　社交辞令のような言葉。
　でも、それでも嬉しい。
「ありがとう、お母様！」
　ぎゅっとシンシアと子猫とを抱きしめた。
「どういたしまして」
「ねえ、お母様、この子の名前、何にしたらいいと思う？」
　機嫌を直したクウェルタに、シンシアは笑う。
「あなたの好きな名前にしたら？」
「それじゃ………」
　嬉しそうに子猫と一緒にはしゃぐクウェルタを見て、思わずシンシアは呟いた。
「本当に世話のかかる子なんだから」
「ん？　何か言った？　お母様？」
「いいえ、来年はどんなプレゼントがいいかしらって言ったのよ」
　我侭な娘を持つのも楽じゃないかもしれない？
　けれど、娘が喜ぶ顔が何よりも嬉しい。
　だからこそ、自分はここにいるのだ。
「本当に、来年はどうしましょうかしら？」


イラスト： 我新すみ