「…君らしい味がする」 「…どーゆー意味ですか?」
● ワンダフル!? ソルティ&メルティチョコレート(コミカル編)
ファリナはバスケットを持って、女神の木の下に立っていた。
(「――そもそも、あのチョコレートって奴は何なんでしょう。どうして作る時に爆発したり飛び散ったりするんでしょうか」)
チョコレート製作の様子を回想しながら、グヴェンを待つファリナ。……誰かが彼女の心の声を聞いたら、チョコレートは決してそういう物ではないとツッコミを入れた事だろう。
(「まあ、そんな危険な物体だったとはいえ、レシピ通りに作ったわけですから、問題は無いでしょう」)
そう1人で納得していると、丘の向こうから近付いて来る影が1つ。
「悪い、待たせちまったな!」
それは試練を乗り越えて、女神の木まで辿り着いたグウェンだった。
満身創痍・疲労困憊という状態ながらも、グヴェンはまず、彼女を待たせた事を謝る。
「いいえ、全然気にしないで下さい。……はい、これ、チョコレートとお弁当です」
ファリナは首を振るとバスケットを差し出す。
「作ってきてくれたの!? うわっ、スゲー嬉しい!」
グウェンは嬉しそうに顔を輝かせると、早速バスケットを開けて中身を食べ始めるが……。
刹那。
「………」
グヴェンは、非常に何とも形容しがたい表情をした。
「……何なんですか、その微妙な顔はッ!?」
「え、いや、なんてゆーか……ファリナらしい味がするな、って……」
その表情を見た瞬間、「私が七難八苦、艱難辛苦を乗り越えて作った、渾身のチョコレートが不味いはずが無い!」とばかりに問い詰めるファリナに、グヴェンは汗を滲ませ、しどろもどろになりつつも笑顔で返す。
(「……これ、砂糖と塩の分量が逆なんじゃ……?」)
――口の中に広がった、どうにも表現しがたい味わいに、グヴェンはそう密かに思う。
「……どーいう意味ですか? それって、褒めてませんよね?」
「そ、そんな事は無い! 作って来てくれただけで嬉しいんだ」
訝るような視線のファリナに、ぶんぶんと首を振りながらグヴェンはバスケットの中身を食べる。
ファリナが期待の眼差しで見ているし。
食べられないというほど不味くもないし。
(「頑張って全部食べるぜ。だって、ファリナがオレの為だけに作って持って来てくれた……なんて、初めてだし」)
ファリナが頑張ってくれたという事だけで、もう本当に幸せだとグヴェンは思う。
「ありがとう……大好きだよ、ファリナ」
「う……あ、よ、喜んでいただけて何よりです……」
真剣な眼差しで礼を言うグヴェンの様子に、ファリナは赤くなりながら紡ぐ。
「……私も好きですよ、貴方の事」
(「………これはどういう事でしょうか。レシピが間違っていたんでしょうかね?」)
グヴェンが食べる姿を見つめつつ、ファリナは失敗してしまった理由を考え込む。……その内容が見当違いで全く違う方向を向いている事は、さておいて。
(「次こそは、もっとマシな物を作ってみせます……!」)
そうファリナは深く深く、心の奥底から誓った。
次こそは大好きな彼に、美味しかったと心の底から喜んでもらえるように……。
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イラスト: こみち
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