− 花舞う園 −

● 花舞う園

 咲き誇る美しい花々に囲まれて、カレンが微笑む。
「今年は昼に来れて嬉しい」
 去年のランララ聖花祭は夜に来たね、と声を弾ませて彼女は言う。風に踊り舞い上がる花弁が一瞬、彼女の姿を覆い隠す。目前の光景は一枚の絵のように美しく、ラザナスは噎せ返るような花の香りに目を細めた。
「初めて出会ってから、もう四年は経つのですね」
 時の流れがこれほどまでに速く感じられたことは、今までに無かった。
 貴女はいつも花の香りを纏っていました、とラザナスは微笑む。冒険者として旅立った自分を、信じて待ち続けてくれていた女性を見詰める。忘れられているのでは無いかと不安を抱きながら彼女を迎えに行った時、彼女はラザナスを拒むこと無く受け入れてくれた。
「故郷よりも、私を選んでくれて……私と、一緒に来てくれて、ありがとう」
 凛々しい面差しで告げる彼に、カレンは恥らうように目を伏せながら、花畑の中で編んだ花冠を掲げて見せた。故郷でも森に住んでいたのに花冠を作ってあげるのは初めてだね、とカレンは微笑んで可愛らしい花冠を彼の頭にのせてやる。素敵な贈り物に瞳を細めて、そうだ、とラザナスは彼女の手を引いた。
 美しい薔薇の咲く茂みの下で、二人は微笑む。
 薔薇の花で交わす言葉は秘密の元に。
 誰の目にも見つけられぬ秘密の花園で、ラザナスは生涯の友であり最愛の伴侶たる女性の身体を抱き締めた。甘い香りの中でカレンは目を閉じ、今日だけは特別、と花よりもなお甘い声で囁く。薔薇の陰で唇を寄せ、触れるだけの口付けを交わす。
 世界を埋める花の下、密やかに愛の言葉を紡ぐ。
「幾千の朝を迎えし時も、幾千の夜を迎えし時も、我が魂は汝が胸にあるでしょう」
 例え身は離れても、心がいつも貴女の傍に。
 艶やかな髪を梳いて、永久に想い続けることを誓う。
「貴方は、酷い人だね……私は、貴方に、何度火傷すればいいの?」
 カレン、と優しく名を呼ぶ人に身を預け、夢見るように囁いた。
 声を潜めて麻薬のような逃れ難い甘さに溺れている。
「悔しいくらい好きだよ、私の、最愛の騎士」
 故郷に置いて来たものは多いけれど、寂しさもきっと消えないけれど。
 決して後悔はしないと想った。
 ラザナスの腕の中が、カレンの故郷になるのだから。



イラスト: 藤タエコ