家族三人水入らず

● 花園の中の平穏

 澄み渡った青空。
 素晴らしい花園。
 そして……。
「ぎゃああああああっ!!!」
「うぉおおおおおお!!??」
 遠くで誰かの叫び声が聞こえるが、それ以外はいたって、ピクニック日和だ。

 今年のランララ聖花祭は、二人だけではない。
「ああうー」
 二人の愛の結晶である、息子も一緒だ。
 今回が初めての外出とあって、見るもの見るものに興味があるらしく、いろんなものに手を伸ばそうとしていた。
 その都度、母親であるメディスが、その手で花や虫を掴まないように遠ざけている。
「じゃ、ここにしようか」
 人気の少ない静かな場所を見つけて、父親であるセリオスが言う。
「はい」
 メディスの言葉にセリオスが頷き、ピクニックシートを草原の上に敷いたのだった。

 少し離れた場所とはいえ、未だにあの試練の場所から、悲しげな絶叫が聞こえる。
 だが、この夫婦の耳にはそんなもの聞こえていないようだ。
「……ふう、いい天気だし、セディウスを外出させるにはちょうどいい日だねえ」
 ずずずとお茶をすすりながら、セリオスはそう言葉にした。
「ええ、セディも嬉しそうです」
 メディスの膝の上で立ち、ふわふわと飛んでいく蝶々を掴もうとしていた。
「ああ、あなた、サンドイッチのお味はいかがですか?」
「もぐもぐ……うん、メディスの手料理も美味しいし、言う事ないね」
「上達しましたか?」
「そりゃもう! ……練習したのか?」
「ふふ、内緒です……」
 くすりと笑うメディスにセリオスもまた、笑いかける。

 こんな穏やかな日が来るなんて思いもしなかった。
 このまま家族3人ずっと暮らしていけたら、これに勝る幸福などない。
 愛している……。
 メディスは、愛するセリオスと、そして、大切な息子のセディウスと共に、こうしてピクニックができた事を幸せに思っていた。

「ふえ、ふええええ」
 突然、メディスの腕に抱かれたセディウスが、ぐずり始めた。
「あらあら、セディもご飯ですね」
 セディウスの涙を拭いてやりながら、前開きの服に手をかける。
「……あなた、こっちを見ないでくださいね」
「ん?」
 服の影で、そっとセディウスに授乳するメディス。
「あ、俺にも少しわけ……」
 と、セリオスの頬に強烈な痛みが走る。
「あいてててっ!!」
 メディスがセリオスの頬をつねったのだ。
「今は、セディのものですよ、パパ」
 にっこり微笑まれ、セリオスは痛みが残る頬をさすったのであった。

「はあ……平和だねえ。このままずっとこうであるといいねえ」
 お弁当を食べ終わったセリオスが、大の字に転がりながら呟いた。
「はい」
 うとうとしているセディウスを優しく抱きながら、メディスも頷く。
「ずっと皆一緒、俺と、メディスと、セディウスと……これからもっと増えるかもしれないけど、家族みんな一緒で過ごせるといいね」
 そのセリオスの言葉に、メディスは微笑み頷いた。
「この幸せは、あなたが私に与えてくれたもの。……感謝しています。ありがとう、あなた」
 そういって、メディスはセディウスを抱いたまま、セリオスに口付けした。
 淡い、口付けを。
「ふふ、どういたしまして」
 セリオスも同じく、キスをする。
「う、うえええっ!」
 と、そのひと時を邪魔するかのように、セディウスが大きな声で泣き出した。
「ど、どうしたの?」
「あら? セディのお尻が温い……」
「え? もしかしておっきい方!?」
 どうやら、セディウスは大きい方を、おむつの中でしてしまったようだ。
「ええっと……おむつはどこですー?」
「わわっ、オムツ、おむつの替えはえーと……」
 どうやら、二人だけの時間はお預けらしい。
 今は、三人目の家族の為にがんばろう。
 愛する可愛い子供の為に………。


イラスト: naru