聖花祭 勇気と想いを篭めて
● 大切なひととき 伝えたい気持ち
さえずりの泉の側で、明るい光が灯る。
空には星が瞬き、暗くなっていた。
「寒くはありませんか?」
ふと、隣にいたアズヴァルに声を掛けられ、ファオは首を横に振った。
「いいえ、大丈夫です。アズヴァルさんは……」
「私も平気ですよ」
アズヴァルは微笑み、そう答えた。
特別な日。ファオは緊張した面持ちで、この場所に来ていた。
この特別な日に、なんとしてでもやり遂げたい。そんな想いを胸に……。
「えと、ハーブティーも用意してありますので……お体を冷やさない様に、どうぞです」
まずは、そっと用意したハーブティーをアズヴァルに差し出す。
「暖かいですね……」
アズヴァルは受け取り、嬉しそうに微笑んだ。
その表情にファオはどきりとしてしまう。
いや、今は驚いている暇はない。
心を落ち着かせて、改めてこの日のために用意したものを差し出した。
「その……これも受け取って頂けると幸いです。お口に合うと良いのですが……」
アズヴァルは受け取り、ラッピングされた箱を開けた。
中には美味しそうなチョコレートがたくさん。
「ありがとうございます、ファオさん」
さっそく一つ口に運んでみる。
「これは……ビターですね?」
「はい、その……アズヴァルさんの好みに合わせて作ってみました」
アズヴァルの問いにファオはそう答えた。
「美味しいですよ、とても」
その言葉にファオはやっと笑みを浮かべた。
だが、その笑みもすぐに消えてしまう。
なぜなら。
「あの……アズヴァルさん。……フォーナの時、伝えそびれていた事があって……」
「伝えそびれた事、ですか?」
アズヴァルの言葉に頷き、ファオはさらに続ける。
「……えと、その……これからも……アズヴァルさんの傍に居たいと思っています。……居て、宜しいでしょうか?」
頬を染め、たどたどしくはあったけれども、勇気を出して言葉にした、ずっと前からの想い。
この日、ファオはやっと、胸に秘めた想いを相手に伝えたのであった。
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温・ファオ(a05259)
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白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)
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イラスト: いろは楓