二年越しのチョコレート

● 二年越しのチョコレート

 どんな想いをぶつけてくれるのかしら?
 溶かすほど熱い想い? とろけるほど甘い想い?
 受け入れてあげるわ、子犬ちゃん。
 甘いチョコレートもアナタも。
 だから、今日はアナタだけしか見えなくさせてね?
 私は激しいんだから………。

 先にたどり着いたのは、アコナイト。
「どうやら、私のが先に着いたみたいですね」
 アコナイトは、自分の側にバスケットを置き、試練で乱れた髪を直す。
(「あのコは、どんな顔してくるかな? 何て言って来るかな?」)
 らしくも無い笑顔を浮かべる。
 トントンと、手作りのトリュフがはいったバスケットを、中指で軽く叩く。
 と、遠くから、走ってくる人影を見つけた。
 ステラだ。
「はぁっ、はぁっ、ア、アコ、だんちょ……お、お待たせいたしました」
「そんなに急がなくてもいいのに……」
 言葉を続けようとした、アコナイト。
 だが、ステラの行動に面食らってしまった。
「あ、あの……コレ……。んっ……」
 この日の為に作ったハート型のチョコレート。
 ステラはそのチョコレートを自分で咥え……そして、アコナイトの口元に差し出す。
「まったく……馬鹿ね……二年も私みたいな、あっちの娘ふにふに、こっちの娘ふにゃふにゃなんてやってるの、想い続けて」
 アコナイトは差し出されたチョコレートに、そっと口付けを交わす。
「だから……今日だけはアナタだけを見ていてあげる。……私の可愛い可愛い子犬ちゃん……」
 そして、アコナイトもチョコレートを咥える。
 互いの体を抱きしめながら、ゆっくりとチョコレートは溶けていった。

「アコだんちょ……ずっとずっと待ってました、この日が来るのを」
 ぼうっとした表情で、ステラは呟いた。
「夢じゃ、ないんですよね。こんなにも幸せなのに」
 確かめるように、それが真実だと信じる為に、ステラはアコナイトの胸に顔を埋める。
「あら、子犬ちゃんは、これが夢だと思うの?」
 その言葉にステラは激しく首を横に振った。
 くすりと笑みを浮かべ、アコナイトは落ち着いた口調で口を開く。
「いいこと、子犬ちゃん」
 可愛いペットに言い聞かせるようにアコナイトは優しく問いかける。
「チョコにはいろいろあるの。甘いチョコビターなチョコ、白いチョコ……」
 自分の持ってきたトリュフを取り出しながら。
「私のチョコのお味も召しませ」
 二人は抱き合いながら、また甘いチョコレートを口に含んだ。

 まどろむように、ステラは空を見上げる。
 草原に横たわる二人は、ぬくもりを逃さないよう、ずっと抱き合ったままだった。
「来年も……またこの場所で、二人で過ごしたいです」
 夢のような時間がまた、来年もありますように……。
「そうね、それは……子犬ちゃん次第かしら?」


 気まぐれな鳥は女神の木に止まる。
 気まぐれな鳥がさえずる。
 貴女の為に、貴女の為に……。


イラスト: ぎん太