〜奏でる想い〜

● 想いの旋律

 女神の木の下で、ヴァイオリンの音が響き渡っていた。
 ヴァイオリンを弾くのは、ヤヨイ。
 それをヤヨイの後ろで聞いているのは、リューシャ。
「……とっても素敵な曲……」
 嬉しそうに、リューシャは呟いた。

 忙しくてなかなか会えなくて。
 こうして会うのは、何ヶ月振りだろうか?
 リューシャは実は心配だった。
 忙しい相手だからこそ、ランララの日に会えないのではないかと。
 けれど、それは杞憂に終わった。
 だからこそ、なおの事、嬉しく思う。
(「迷惑になると思って、我が侭言わないようにしてきたけど、やっぱり寂しかったから……」)
 ヤヨイの奏でる暖かい曲を、涙を滲ませながらも、リューシャは嬉しそうに耳を傾けていた。

 暖かく柔らかな、優しい音色。
 ヤヨイは心を込めて曲を奏でる。
(「俺は菓子も作れない。かといって、喜ばれるようなプレゼントを選べられるほど、器用じゃない。だから……」)
 ヤヨイはより一層、想いをこめて奏でた。
 自分で作った、リューシャのための曲。
 その曲を想いをこめて、リューシャに捧げる。
 それがヤヨイの考えたプレゼントであった。
 お菓子や素敵なアクセサリーなどではなく、自分の作った曲で想いを伝える。

 ふと、気づくと後ろにいたはずのリューシャは、ヤヨイの前に立って見つめていた。
 にっこりと嬉しそうに微笑みながら。
 ヤヨイも思わず笑みを浮かべる。
 そして、ヤヨイの手がゆっくりと余韻を残すかのように止まった。

「……すっごく嬉しいです……ありがとう、ヤヨイ」
 そういって、リューシャは手に持っていたお菓子のプレゼントを手渡した。
「俺も、リューシャにそう言ってもらえると嬉しい」
 ヤヨイも微笑み、リューシャのプレゼントを受け取る。
 このリューシャの想い、温もりをヤヨイは大切に感じていた。
 そして、リューシャもまた、寂しい想いをしていた事も知っていた。
 だから……それを今度は音ではなく、声で伝えよう。
「リューシャ……俺は……君を愛している」
 ヤヨイは自分の想いを言葉にして告げた。
「ヤヨイ……」
 リューシャは思わず頬を染め、涙を零しながらも、笑顔でヤヨイを見る。
「ありがとう……本当に、嬉しい……」

 もう一度、ヴァイオリンが奏でられる。
 先ほど奏でられた曲と同じ曲だが、少し違う。
 伸び伸びと弾んだような、幸せそうな雰囲気がある。
 こうして二人は、幸せそうにヴァイオリンの音を楽しむのであった。


イラスト: いろは 楓