聖花舞う園

● Periodo del fiore 〜花時間〜

 花園へと歩いて来た2人は、適当な場所に腰を下ろすと、足を休めながら言葉を交わしていた。
 互いに言葉を交わす時間はとても楽しいもので……あっという間に、時は過ぎ去っていく。
「それで……けほっ」
「大丈夫か?」
 そんな会話の途中に、ふと咳き込むリリエラ。風邪気味な彼女は、出来るだけ心配を掛けないようにと、笑顔を心がけて話していたけれど……やっぱり、どうしても咳は出てしまって。
 リリエラの様子に、心配げな視線を向けたゼイムに「大丈夫ですわ」と何事も無いかのように微笑みかけるリリエラだけれど……その誤魔化しは、彼には通じてくれないようだ。
「まだ、風も冷たいからな」
 ゼイムは上着を脱ぐと、そっと彼女の肩に掛ける。
 そんな彼の気遣いを、有難いとは思う。けれど……心配を掛けたままではいたくないと、リリエラは、その意識を少しでも自分の体調から逸らす事が出来ればと、用意していた小さな箱を取り出す事にする。
「ゼイムさん、これ……召し上がって下さいます? トリュフ、なんですけれど」
 彼へプレゼントする為に作ったトリュフを差し出したリリエラに、勿論だと頷いて、ゼイムは箱を受け取ると、彼女の肩を抱き寄せて頬擦りをする。
「まぁ……」
 その行動に、恥ずかしさから頬を赤く染めながらも、リリエラは、そっと、そんなゼイムの体へと寄りかかる。
「お……」
 そうして寄り添う2人の側に、ふと、一筋の風が吹き抜けたかと思うと……どこからか、その風に乗って運ばれて来た花びらが、はらはらと周囲に舞い散る。
 それは、花園の景色とはまた違った綺麗さを持っていて。リリエラには、それがまるで、自分達の時を止めようとしているかのようにも思えた。
 この大切な時間が、ずっと、ずっと続くようにと……。

「………」
 だから今は、このままで。
 二人で体を寄り添わせたまま、過ごしたい。
(「もし、後で風邪が悪化したとしても、その時はその時。仕様がありませんわよね……?」)
 そんな風に思いながら、リリエラはそっと瞳を伏せた。


イラスト: はまだ