想いは出逢った頃よりも深く強く…

● 想いは出逢った頃よりも深く強く…

 その日のイヴは早くに起きて、お紅茶とお菓子と、お気に入りのティーカップにプレゼントの金平糖をいれたピンクの包みを持って、試練の待ち受ける場所へと向かった。
 服装は……そう、2人が昔……緑の綺麗な森の奥の泉の畔であった頃のもの。
 イヴが記憶をなくしていた時に手元に残っていた数少ないものだ。
 イヴはその想い出の品を身につけ、今日に備える。
 大切な彼と幸せな時間を過ごす為に……。

「ふにゃぁ……」
 ぽかぽかぽかぽか……。
 シェルティよりも早く、女神の木の下にたどり着いたイヴ。
 優しい日差し、心地よい風を感じながら、イヴは夢の中に落ちようとしていた。
「にゃーん」
 足元にはイヴのペットである黒猫のミシェルが擦り寄ってきている。
 ミシェルの頭をそっと撫でながら、イヴは目を擦る。
「……なんか……ポカポカで……ねむく……ふぁっ………」
 木を背にして座り、その瞳をゆっくりと閉じた。
「にゃーん」
 もう一度、ミシェルが鳴く。
 けれど、イヴはもう起きなかった。
 すやすやと気持ち良さそうに眠っていた。

「もうイヴ、来ているかな?」
 ぱたぱたとやってきたのは、シェルティ。
 少し試練で時間がかかってしまったようだ。
 やっと女神の木の下までたどり着いたのだが……。
「すぅすぅ……」
「イヴ?」
 シェルティが見つけたのは、気持ち良さそうに寝ているイヴの姿。
 その側には丸くなっているミシェルもいる。
「イヴ、イヴ……」
 ちょっと声をかけるが、ぐっすり眠っているらしく、反応がない。
 シェルティはそのまま、イヴの隣に座る。
 と、シェルティは何かを思いついた。
「このくらいなら……いいかな?」
 イヴの髪を一房掬うと、その髪にキスをしたのだ。
「大好き……だよ」
 照れたように顔を火照らせながら……。
「にゃーん」
 と猫の鳴き声が。
 そう、ミシェルである。
「ミシェル、秘密だぞ」
 慌てたようにしーっと口元に人差し指を持っていきながら、そう黒猫に告げる。
「にゃん」
 頷いたのか、それとも分からないと言ったのか。
「んっ……シェル〜……シェルわぁ……イヴの……1番さん………」
「イヴ、起きたの……」
 いや、イヴは起きていない。寝ぼけているだけだ。
 なかなか起きないイヴに、シェルティは思わず笑みを浮かべた。

「ふにゃっ……シェル!! 夢ぢゃなくて本物にゃぁ……びっくりしたですよぅ」
 やっと起きたイヴにシェルティは思わず、くすくすと笑ってしまう。
「気づかなかったの?」
「は、はいなのですよぅ」
 シェルティに頭を撫でられながら、イヴは恥ずかしそうに頷いた。

 シェルティの秘密。
 知っているのはミシェルと。
 イヴの首に下がっている銀の十字架だけだろう。


イラスト: 機喬 鎖ノム