星屑の丘で〜触れ合う二人の吐息

● 星に願いを。君に想いを。

「来た道はこっちだから、あっちに行けば帰れるなぁ〜ん♪」
 ランララ聖花祭を一頻り楽しんで、元気一杯のルゥルを先導に帰り道を歩き出したのがそもそもの間違い。気が付けば見知らぬ場所に辿り着き、ルゥルのぴんと伸びた尻尾がみるみる萎れる。
「迷ったのなぁ〜ん……」
「そーか、そーか、迷ったか」
 悄然と地面に目を落とすルゥルの頭をがしがしと撫でるコジロウ。笑いを堪えた表情の青年を見上げて、ルゥルはむうと頬を膨らませた。
「間違ってたの分かってたのなら、先に教えて欲しいなぁ〜んっ」
「まぁ、いいじゃないか。誰もいなくて静かだし、夜空の星は綺麗だし、帰り道は俺が覚えてるし」
 堪え切れず笑い出しながら、コジロウが宥める様に言う。むくれた表情もコジロウにとっては堪らなく可愛く見えて。コジロウはルゥルの頭を今度は優しく撫ぜる。
 それから2人、丘の上に並んで座り、満天の星空を見上げた。
 夜空に揺らめき立ち昇る紫煙。コジロウがくゆらす煙草の煙の向こう側、大きな星が一粒流れてルゥルが思わず立ち上がる。
「コジロウさんっ、流れ星なぁ〜ん! お願い事しなくっちゃ。えーとえーと、美味しい林檎がいっぱい食べられますように……」
 それから、大好きな人と、ずっとずっと、一緒に居られますように……本当の願いは心の中で呟いて、ルゥルは手を合わせて目を瞑る。
(「……流れ星に願いを、か……。ロマンティック、だな――」)
 友達以上恋人以下。微妙な関係の、それでも愛しくて堪らない少女の横顔を見ていたコジロウは、だけど、と笑う。色々な表情を見たいという気持ちと、少しの悪戯心と。
「流れ星って言うのは――」
「夢のないこと聞くのは、やだなぁ〜んっ!」
 ぷいとそっぽを向くルゥル。むくれた顔がやっぱり可愛くて、それから全てが可愛くて、小さな金色林檎の姫様をコジロウは後ろから抱きしめた。逞しい腕の感触に、ルゥルの小さな胸が高鳴る。
「こ、コジロウさん……?」
 ルゥルが振り向けば、前髪が頬に触れるくらい間近な場所にコジロウの顔があった。
「星に願いなんか掛けなくても……ほら、こんなにそばにいる……。ずっと、そばにいるよ」
 伝わる微かな煙草の香り。夜気を震わす言葉の響きと、コジロウの温もり。全てが堪らなく幸せで、幸せで。
「んと……うん。ずっと一緒に、傍に居てくれたら……嬉しいなぁ〜ん」
 そう、ルゥルはお日様のような、2つ名の如くに黄金の林檎を思わせる飛び切りの笑顔を浮かべた。  コジロウも笑う。言葉と笑い声と吐息が混じり合う。ふと真摯な表情を浮かべるコジロウ。そっとルゥルに唇を寄せる。驚きの表情を浮かべた後、幸せそうに微笑んでルゥルは目を伏せる。
 そして、キスをした。
 想いを染み込ませる様な、長い長いキスをした。


イラスト: 天神うめまる