こいしい声をおもうと 胸のあかい実がいたい
● こいしい声をおもうと 胸のあかい実がいたい
今日は誰もが心ときめかせる日、ランララ聖花祭。
「カエサル……まだ来ていないのか」
この日、先に女神の木の下にたどり着いたのは、アズリアだった。
「試練に手間取っているのか? カエサルは」
木に寄りかかりながら、アズリアは愛しいその人を待つ事にした。
しばらくして……。
「わりー待たせたな」
やっと現れたカエサル。
「えっ?」
思わず声が漏れる。
そう、カエサルは可愛らしいドレスを身に纏ってきていた。
問題なのは、カエサルが男性だという事。
つまり、女装してきたのだ。
「べ、別に俺はこういう服が趣味なんじゃないぞ!」
ごまかすように頬を紅色に染めながら、カエサルは叫ぶ。
「た、ただ……ほら、ランララ聖花祭って……女が男に御菓子渡す日じゃん……。でも俺、男だし……男が男に御菓子渡されてんのなんて……お前みっともないだろ? だ、だから……」
どうやらカエサルは、アズリアが好奇の目に晒されるのが嫌だから、自分が女装する事を決めたようだ。
「……もー! 俺にこんな格好させんな! 阿呆! 馬鹿ー!! ほら! さっさと受け取れ!」
そう言って、手に持っていたお菓子を手渡した。
はずだった。
カエサルは、突然、アズリアに抱きしめられてしまう。
「あ、アズリア……」
顔を火照らせながら、カエサルは呟く。
「俺のこと気にしてそんな格好したのか? 馬鹿だな」
「ば、馬鹿ってっ」
にこっと笑い、アズリアは続ける。
「……周りがどう思ったって、俺がお前を愛してることは変わりないのに。でも、ありがとう。大好きだよ、俺の大事な赤兎さん」
最後は抱きしめるアズリアの耳元で囁く。
「痛い……痛いよ……」
小さな声で、カエサルは呟いた。
「強くしすぎたか?」
「違う……そんなんじゃなくて……その……」
口ごもるように俯くカエサル。
「カエサル?」
「……いつもお前の声聞くと……胸がちょっと痛いんだ……何だよ……これ……」
その言葉にアズリアは、またカエサルを抱きしめた。
大切なものを包み込むように。
抱きしめる彼の頭を優しく撫でていた。
「それはきっと、俺の事が……」
声が聞こえない。
何も聞こえない。
ただただ、自分の鼓動だけが耳に流れてくる。
わかるのは、二人が愛し合っている事。
そして、二人が幸せだという事に他ならない。
カエサルはゆっくりと瞳を閉じて、そのままアズリアに身を任せたのであった……。
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隻眼の神狼・アズリア(a14514)
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この虚無に捧ぐ供物となれ・カエサル(a22041)
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イラスト: 綾乃ゆうこ