【ランララ聖花祭】観月夜華

● 観月夜華

 優しく降り注ぐ月明かりの下に、恋人の姿を見つけてヴィアドは唇の端に笑みを刻んだ。
 綺麗に包んだ御菓子を大切そうに抱えて、ネフィリムも彼に微笑み返す。
 人の多い待ち合わせ場所を軽く見回し、ちょっと散歩しようか、とヴィアドが誘った。彼女も頷いて、朝露の花園が良いと行き先を選ぶ。彼は頷いて笑った。
「ネフィは花が好きやからな」
 言われてネフィリムは目を瞬く。
 特にそう話した記憶が無いのに、彼が知っていてくれたことが嬉しくて顔が熱くなった。
「ん……? 何か顔赤いけど、大丈夫か?」
 ヴィアドは手を伸ばし、そっと彼女の赤い頬に手で触れる。
「だ、大丈夫ですっ……」
 ますます赤くなりながらも、一生懸命に頷いて肯定する彼女をヴィアドは優しい瞳で見詰めていた。

 月の光に照らされながら、可憐な花々が風に揺れている。
「朝一番の花の蜜には、ランララ様の祝福がたくさん詰まっているのですよね?」
 ピンクの花を覗き込んで、ネフィリムが呟いた。ヴィアドは花と彼女を覗き込んで、続く言葉を待つ。
「料理が得意ではない私でも、その祝福があれば、上手に作ることができるでしょうか……」
 ほんの少し悲しそうに眉を下げて彼女は言う。
 何やら、不恰好な形に仕上がったお菓子のことを気にしているらしい。
 充分に美味しかったのだがとヴィアドは内心で思いつつ、彼女の向上心に尊敬に近い思いを抱く。
 今日彼に渡したお菓子は、作り方を教えて貰いながら作った品だった。ネフィリムは来年の今日こそ、きっと一人で美味しいお菓子を作って彼に贈ろうと決意する。
「ヴィアドさんに、美味しいお菓子を食べて頂きたいから……」
 恥ずかしそうに呟く彼女の頭を撫でて、ヴィアドは穏やかに微笑んだ。
「感想は、正直に言うからな?」
 コクコクと頷く彼女の頬は、またほんのりと朱に染まっている。
「一先ず……胃は鍛えとくかな」
「!!」
 からかうような台詞に言葉も無い様子で、口をぱくぱくさせ耳まで赤くなるネフィリム。
「ほんまによく照れるな、ネフィは」
 くつくつと笑いながら、湯気が出そうな彼女の肩を軽く叩いて落ち着かせて、ヴィアドは小さく本音を言った。
「作ってくれることが嬉しいから、失敗でも良いんやけどな? ……ありがとう」
 ネフィリムは赤い顔のまま、いつの間にか大切な人になっていた彼を見上げる。
 花々には夜露が光り、地上にも星があるかのようにきらきらと輝いている。
 恋人と共に過ごすランララ聖花祭の夜は、何にも勝る幸福なのだ。
 ヴィアドも想いは同じだった。
「(……唯一、だから)」
 口にはせず、胸の中でだけ呟いた。
 愛しさを胸に、二人はそっと手を繋ぐ。



イラスト: ミヨシハルナ