絆の記憶〜ランララ聖花祭の思い出〜

● 絆の記憶〜ランララ聖花祭の思い出〜

 様々な花が咲き乱れる、朝露の花園。
 と、そこに一人の女性が現れる。
「アズマさんは……」
 彼女の名はイリス。
 今日は大切な……愛する人である、アズマと待ち合わせしている。
 その手にはアズマに渡す為のお菓子があった。
「まだ……来ていないみたいですね……」
 ほっとすると同時に、残念な気持ちも生まれてくる。
 時が経つにつれて、そわそわしてしまうイリス。
「アズマさん、まだでしょうか?」
 イリスはやってくるはずの彼を待ちながら、澄み渡った空を見上げた。

「ふう、やっと来れた……」
 嫉妬の嵐が巻き起こる試練を乗り越え、アズマは、やっと目的地へとたどり着いた。
 そこで恥ずかしそうに立っているイリスを見て。
「う゛……めちゃくちゃカワイイ……」
 思わず呟いてしまう。
 でも、本人の前では、なかなか本心は言えない。
「ごめん、イリス。遅くなって……」
 アズマは遅くなった事を詫びる言葉だけ伝える。
「い、いいえ……私も丁度、来たところですから」
 イリスも緊張した面持ちで微笑む。
「あの、アズマさん……」
「ん?」
「このチョコレート、受け取ってもらえますか?」
 そう言って、手渡されたチョコレート。
 ハート型のチョコレートは、少し歪な形になっていた。
 だが、アズマは知っている。
 イリスは料理が苦手だ。
 今でも3割の確率で、焦がしてしまう程に。
 そのイリスが、手作りでチョコレートを作ってきたのだ。
 形の悪いチョコレート。
 それが、どんなに愛しい存在か。
「ああ、もちろん。……ありがとう、イリス」
 そういって、アズマは受け取った。
 さっそくチョコレートを一口。
「……ん、美味いっ」
「ほ、本当ですか?」
 その問いに、アズマが頷く。
 アズマの口の中で、甘いチョコレートが広がっていく。
「本当に美味いよ。よくやったな、イリス」
「はい……」
 イリスも笑みを浮かべる。
 幸せなひと時。
 それは二人の心の中にいつまでも輝き続ける思い出として……。


イラスト: どり