ランララ聖花祭〜sweet chocolate day〜

● sweet chocolate day

 昼下がり。
 暖かな木漏れ日が世界を包む。
 涼しげな風が吹き、木々が耳に心地よい梢の鳴る音を聞かせてくれる。
 飛ばされないよう帽子を押さえ、マオーガーはチョコレートケーキを食べていた。ごろりと草原に寝転がって、ハート型のチョコレートが載った美味しそうなケーキを頬張っている。
「行儀悪いぞ……」
 隣に腰を下ろしているのは愛しい妻であるルーシェン。
 呆れたように笑いながら、彼女はのんびりとケーキを食べた。
 付き合い始めの恋人のような初々しさは無い。二人は既に挙式を済ませ、夫婦と言う関係になっている。
 言葉を口にする必要が無いほど、二人は愛し合っていた。
 二人は他の何とも比べられないほど本当に幸せで、共に居る限り幸福に理由など必要はなく、言葉にしなくとも二人の想いは同一と思えるのだ。
 取り立てて語る言葉も無く、安らいだ時間が流れて行く。

「あ」
 何かに気付いたようにルーシェンが目を瞬いた。
 堪えきれない様子で肩を震わせる彼女を、気付いていないマオーガーが不思議そうに見上げる。
「こどもー」
 ルーシェンは、くすっと笑ってマオーガーを指差した。
 まだ判らないのか目を瞬いている彼の、頬についていたケーキを指先でそっと拭ってやる。そして、拭ったケーキの欠片をぱくりと食べた。
「はぃはぃ……てか、どっちが子供よ」
 見ればルーシェンの頬にもチョコレートの欠片がくっついている。
 服の上にぼろぼろとこぼしているのだって、実はお互い様だった。
 恥らい頬を染める妻の頬から、今度はマオーガーがチョコレートを拭ってやる。
 有り触れた日常の幸せが嬉しくて、二人は顔を見合わせ、くすくすと笑った。
 それからも二人は流れる幸福な空気を噛み締め、緩やかにランララ聖花祭の時を過ごした。
 ルーシェンはふと、視線を下げる。
 子供子供と言い合っていた二人だが、遠からず本当に、家族が増えそうなのだ。
 出会いの日に、結婚の日に。月日は目まぐるしく流れて行く。
 今日という日の穏やかな時間をとても愛しく思いながら、ルーシェンはマオーガーに微笑み掛けた。
 マオーガーもまた、浮かぶ想いを言葉にはせず、唇に静かな笑みを浮かべていた。



イラスト: 月邸 沙夜