ほの甘く流れる時間を

● 時も忘れて

 正直、期待をしていたけれど、本当にランララの日に貰えると本当に嬉しくて。
 愛する人と一緒に食べるチョコレートは格別だ。
 イーリスが差し出すチョコレートを微かに微笑んで口にするヴィヴ。
 黒い幸福の最後の一欠片が舌先で蕩けた。
「おいしい?」
「とても美味しかったです。ありがとうございます、イーリス」
 その答えを聞いてイーリスは紅玉の瞳を煌かせて笑い、膝に戯れる子猫の様にウィヴの膝へと頭を預けた。男の膝枕では居心地は悪かろうと思いつつも、喜んでくれているので良いかと、ウィヴはイーリスの流れる銀の髪を優しく撫ぜる。
 暫く目を伏せて撫でられる心地よさを楽しんでいたイーリスは、やがてウィヴを悪戯っぽく見上げると、撫ぜる手を捉えて指先に唇を寄せた。夜風に冷やされた手に唇の熱さ。柔らかな感触にウィヴの鼓動が早まる。
「ちょっと甘い」
 笑うイーリス。
「そうですか? チョコレートは……ああ」
 言い掛けて意味に思い至り、ウィヴも笑う。顎に指を当てて少し考えた後、ウィヴまったくの不意打ちでイーリスの唇に口付けた。微かな吐息が毀れる。チョコレートの様に蕩けるキス。
「確かに甘い、ですね」
「……ばか」
 言って、離さず捉えたままのウィヴの手に、また指先に掌に手首にキスを落とすイーリス。ウィヴもイーリスの美しい髪へ、繊細なうなじへ、背筋へ慈しむ様に優しく触れる。差し伸べられたイーリスの指先がウィヴの髪に咲く朝顔と戯れ、ウィヴの掌がイーリスの背で震える真白の羽根を優しく辿った。
 星屑の丘の上、銀砂さざめかせる夜天の下で、風に乗る初春の香りに包まれて2人、寄り添う幸せを噛み締める。
「ウィヴ……大好きだよ」
 ウィヴの首筋に腕を絡めるイーリス。
 そのしなやかな背を支えて、ウィヴはイーリスを抱く。
「ずうっとこうして一緒にいられたら良いね。ウィヴの傍に居るのが一番幸せ」
「ええ。ずっと傍に――」
 囁きながら、互いの顎に、頬に、瞼に口付けを贈り合うイーリスとウィヴ。
 それから2人、約束の様に唇でキスを交わした。


イラスト: いろは 楓