〜大きな女神の木の下で〜

● 【一年に一度の…】

 ルナは女神の木の下に辿り着くと、小さな包みを2つ取り出した。
 1つは、女神ランララへと奉納するために。
 もう1つは……彼へと渡すために。
 用意した、ルナ手作りのチョコレートだ。
「………」
 片方の包みを、女神ランララへと奉納したルナは、木に寄りかかりながら、彼が現れるのを待つ。

「あ……ルナさん」
 しばらくして、女神の木を訪れたミュヘンは、ルナの姿を見つけると、彼女の方へと駆け寄った。
 その姿は、ここまで試練を越えて来たせいなのか、すっかりボロボロになってしまっている。
「大丈夫ですか……?」
 案ずるような視線を向けながら、ルナは淡い光の波――ヒーリングウェーブを放つと、彼の体を癒し、手持ちの包帯やガーゼで簡単な手当てを行なう。
「ありがとう、ルナさん」
 そんなルナの看病を受けながら、男としては、ちょっぴり情けないと思わないでも無かったが……なんだか、こういうのって照れてしまうなと、ミュヘンは頬を赤くする。
「はい、これで手当ては良いですね。では……」
 やがて手当てを終えたルナは、ミュヘンのためにと用意しておいたチョコレートの包みを、彼の掌の上に置く。
「……例えどんなに離れていても、私達の心はいつも1つですよ」
 一呼吸置いて、そう告げるルナを見つめたミュヘンは、そのままそっと、彼女の体を抱きしめる。
「不老不死なルナさんには、僕と居る時間は、長い時間の中の、ほんの僅かな部分かもしれません。だけど……その僅かな時間が、何時までも心に残るように……僕は頑張るのです。だから……」
 抱きしめながら、そう告げたミュヘンは、じっと彼女の瞳を覗き込んで。
 ……そのまま、優しく、キスを1つ。
(「自分からするのは、これで3度目でしたかね?」)
 そんな事を、ふと思いながら、ミュヘンは唇を離した。

 やがて、女神の木に流れるのは、静かなハープのメロディ。
 辺りには、ほのかにチョコレートの香りが漂って……。
 2人は共に星空を見上げながら、ランララ聖花祭の時間を過ごすのだった。


イラスト: 秋月えいる