あなたに、愛を。

● 白木蓮と藤の花

 ちょこんと待つ少女が一人。
 不安そうに辺りを見渡し、そしてため息。
「来てくれるでしょうか?」
 不安そうな表情を浮かべ、リアは彼が来るのを待っていた。

「……やれやれ、甘ったるい空気だな……。甘さ過剰で誰か死ぬんじゃねーか?」
 エストがいつもの口調でやってくる。
 辺りでは数多くの恋人達が集い、そして別の場所へと移動していく。
「……つっても、俺もこの中にこれから混ざるのか……去年とはエラい違いだな……」
 皮肉気な笑みを浮かべ、エストはリアを見つけた。

「待たせたか?」
「エストさん!」
 リアの顔がぱあっと華やぐ。
 ちょこちょこと、エストの側にリアが駆け寄ってきた。
「……すまんな、妨害を排除するのに手間取って……ああ、いや。言い訳にしかならねぇな……悪い、待たせた」
「いいえ、私も来たばかりですから」
 にっこりと微笑む彼女を見ていると、自分も嬉しくなってしまう。
「あ……その……これを受け取ってもらえますか?」
 緊張した面持ちで、リアが持ってきたお菓子を手渡した。
 エストの為に作った甘いお菓子。
「あ………」
 声が出ない。
「エスト、さん……?」
 不安そうに見上げるリアを心配させたくない。なんとか言葉を繋げる。
「……うわ……人間、幸せすぎると言葉って出てこないもんだよな……」
「え、エストさん……」
 リアの頬が赤く染まる。
「……はは……俺なんかで、いいのか……?」
 その言葉に、リアはこくりと頷いた。恥ずかしそうに、更に頬を染めながら。
「そうだ……俺の名前、ファミリーネームってやつ? それが、とある花の別名なんだ。その花言葉は至福。。……つまり、俺がお前と一緒に居て、感じてる気持ちって事さ」
 やや遠まわしに話す言葉は、好きだという気持ち。
「え? そ、それって……」
「ああもう、分かれよ」
「ええっ!? 別れる、ですかぁ!?」
「ち、違うって、その別れじゃなくってだな……」
 エストは勘違いするリアに慌てふためき、そして。
「だから、こういうことだよっ!」
 リアの頬にキスをする。
 リアもやっと、エストの真意に気づいた……。

「……甘さ過剰で死ねる世界だったら、この時期この場所は、いつぞやの戦役をも超過する大ジェノサイドだな」
「え? 戦いですか!?」
 あわあわと慌てふためくリアを、エストがまた、誤解を解く。
 こんな二人のやりとり。
 よく誤解されてしまうが、それでも二人の心は、今確かに繋がった。


イラスト: ぎん太