『向日葵と白華』
● 向日葵と白華
リツカとセラの2人は、小鳥たちがさえずる、小さな泉を訪れていた。
泉のすぐ側にある、大きな木に寄りかかるように腰を下ろして、セラ手作りのチョコレートケーキを一緒に食べたり。
射し込む陽射しを受けながら過ごすうち、いつしか肩を並べたまま、うとうと眠ってしまったり……。
そんな風に、のんびりとした時間と共に、1日はあっという間に過ぎ去って行って。
空は淡く赤く、夕焼け色に染まり始めている。
「んん……そろそろ、帰ろうか」
リツカは1度大きく体を伸ばすと、そうセラを振り返った。
「そうですね……」
楽しかった今日1日の出来事を思い返しているのか、柔らかく微笑みながら頷くセラ。
彼女もリツカと同じように立ち上がるけれど……ふと、服の隙間から入り込んだ、冷たい空気に体を震わせる。
「あ……。セラさん、良かったらこれを」
その様子に気付いたリツカは、自分の首から外したオレンジ色のマフラーを、彼女の首元に回す。
「帰り道はきっと寒いでしょうから、これを巻いて帰って下さい♪」
そう言いながら、ふんわりとマフラーを巻くと「はい、これでいいですよ」とリツカは笑いかける。
「有難う御座います……」
自分の首にマフラーを巻く彼の様子を、少し恥ずかしそうにしながら見つめていたセラは、それまで以上に頬を赤く染めながらも、彼にお礼を伝える。
「いえいえ、気にしないで下さい。あ、返すのはいつでも構いませんのでっ」
そう軽く首を振ると、笑顔のままリツカは告げて。それじゃあ帰りましょうか……と、セラを促すように一歩、ゆっくりと踏み出す。
「はい……」
小さく頷いて、そんな彼の隣に並ぶセラ。2人は赤く染まった空や木々を眺めながら、ゆったりとした足取りで帰り道を進んで行く。
時折、夕暮れの少し冷たい風が吹き抜けて行くけれど……不思議と、寒くはない。
首に巻かれたマフラーが、風を防いでくれるから。
そして……今日1日の思い出が胸に暖かく残っているから、なのかもしれなかった。
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イラスト: 秋月えいる