木漏れ陽の時間 〜未成年飲酒禁止令〜

● 木漏れ陽の時間 〜未成年飲酒禁止令〜

 昼下がりにさえずりの泉の畔にて、集まった恋人たちを眺めながらハルは蜂蜜色の酒で喉を潤す。冬だと言うのに肌寒さを感じないのが、毎年のランララ聖花祭らしさだとも思う。木陰に腰を下ろし、落ち着いた場所が見つかって何よりだったと連れ添いを見遣る。
 ハルが用意したバスケットからサンドイッチを取り上げ、ひと齧りするリャオタン。彼は拗ねてでもいるかのように、不自然なくらいの距離を置いて座っていたが、徐々にハルへ近付いていた。そっぽを向きながらようやくハルの隣に座る。
 リャオタンは白ワインで満ちた酒瓶を物欲しそうに見詰めていた。
「酒を飲んでいいのは、当然俺だけだからな」
 目で訴えるリャオタンに、先手を打ってハルが言う。
 敗北を知りつつも瓶へ手を伸ばすが、サッと瓶を避けられる。
「……ケチ!」
 リャオタンが悪態をついても、ハルは涼しい顔のままだ。
「ばかっ」
 柔らかく微笑んだままグラスを傾ける。
「痩せっ」
 欠片も動じた様子が無い。
「白っ」
「ほら、おまえはこっち」
 悪態にもならなくなった辺りで、ウイスキーボンボンを差し出してやる。
「ケッ、チョコレートボンボンなんかいらねーんだよっ」
「受け取れないとは言わないよな、リャオ?」
 拗ねてフンと背を向けるリャオタンだが、ハルの穏やかな声にびくっと肩を震わせた。
 恐る恐る振り返ると、予想通りの笑顔がこちらに向けられていた。
「…………」
 無言で受け取り、仕方なさそうにひとつふたつもしゃもしゃと食べるリャオタンを、ハルは満足そうに瞳を細めて見遣る。
「……自分のことに頓着しないんだよな、おまえ」
 呆れたような口調の慈しむような声が言う。リャオタンはハルに背を向け、何を言うでも無くウイスキーボンボンを食べていた。自分をもっと大切にして、自分が思っている以上に周りが自分を大切に想ってくれていることを、彼が判る日が来れば良いとハルは思う。
「…………」
「ん?」
 柔らかな初春の日差しの中、吹き抜ける風が梢を揺らす。
 リャオタンが自分を呼んだように思えて聞き返すも、彼は言葉を返さない。
 穏やかに瞳を閉じて、ハルに身を預けた。不機嫌そうなリャオタンの表情が心なしか和らいでいる。
 気を許した仕草を微笑ましく見守りながら、ハルは新緑の葉を見上げる。

 穏やかな時が長く続きますように。
 叶うならより多く、暖かな記憶を残せますように。



イラスト: 鳥居ふくこ