同じ空の下

● 誓い

  ランララ聖花祭の夜、エッジは星屑の丘に立っていた。
 空に煌く星々を見上げる。遠い西の戦場には、親友と言える女性がいる。
 再び生きて会えるかも判らないような、激戦の地を思う。エッジは空に呟いた。
「……頑張れよ。ちゃんと、帰って来い」

 その頃、ジャネットは久々に重たい鎧を外し、息を吐いていた。
 送られた大切な剣の鞘を抱きながら、拠点としている洞窟から空を臨む。
 今日は聖花祭。
 暦の上では知っているが、彼女の身を置いている場には菓子を贈り合うような甘い余裕が存在しない。
 美しい装飾の施された鞘を握り締め、ジャネットは弱音の代わりに誓いを呟く。
「我等、希望を誇る冒険者なり」
 必ず生きて帰ると約束した友人たちを思った。
 彼らも今、この美しい夜空を見上げているのだろうか。

「民を護る盾となるもの」
 恋人たちの囁きが満ちた丘で、エッジは祈るように誓いの言葉を呟いていた。

「我が心 果て無き大地に憧れ」
 ジャネットは戦いを好まない。
 だが、大切な仲間を守るために剣を取る強さを持っている。

「諦めぬことを大地に誓い」
 彼女の強さを、エッジは良く知っていた。
 熾烈を極めるような土地でも、彼女は必死で戦い続けていることだろう。

「誓う、友の元へと戻ることを」
 必ず生きて帰ることを、美しい空の星に誓った。

「「……グリモアの加護が、我等の御身にあることを願う……」」

 広過ぎる同じ空の下で、二人は静かに呟く。
 エッジは彼女が居るだろう東の空をもう一度見上げると、彼女の無事を願いながら丘を下った。
 ジャネットは零れ落ちそうになる涙を堪え、もう一度、大切な鞘を握り締めた。



イラスト: そか