悠久の灯火

● 悠久の灯火

 日が沈み、すっかり夜空に包まれた星屑の丘。
 そこを訪れたユファは、まだ冷たい冬の夜風に吹かれながら、約束の相手の姿を探していた。
(「まだ……でしょうか?」)
 彼女の姿は見当たらず、ユファは辺りを見回しながら足を止めた。

(「……いらっしゃったみたいですね……」)
 そんなユファの姿を追うように、リリィは視線を動かしていた。
 先に着いたのはリリィの方。でも、まだユファは、自分が来ている事には気付いていないようだ。
 少し困ったような、心細そうな……そんな表情のユファを見つめながら、リリィはそっと歩き出す。
(「……気付いた時には、私にとって、居なくてはならない存在になっていた……」)
 こんなにも愛しくて、こんなにも大切で……そして、切ない。
 この思いが、届かない事を知っているから。
 けれど……私は、ここにいる。
 ずっと、ずっと……ここに……。

「……え?」
 ふと背後から近付いて来ると、自分に触れた温もりに、ユファは驚きの声を上げた。
「私、です……」
 ふわりと掛かるストール。
 振り返れば、そこには約束の相手であるリリィが、囁きながら微笑んでいた。
「リリィさん……」
 それを理解すると、驚きの表情を安堵に変え、ユファはリリィの手に、そっと自分の掌を重ねる。
「あ……私、リリィさんにプレゼントを用意したんです。うまく作れているかわかりませんけど……似合うといいなぁ」
 言いながら、ユファが取り出したのは、リリィと同じ名前を持つ、百合のコサージュ。
 それをそっと、ユファは彼女へと手渡す。
(「……いつもご迷惑や心配ばかりおかけして、申し訳ありません……。……いつも傍で、元気付けてくださって……ありがとうございます……」)
 そんな想いを込めながら……。
「本当に……? ありがとう、ございます……」
 リリィは嬉しそうに微笑むと、ユファを抱きしめている腕に、ほんの少しだけ力を込める。
 ――私にとって、かけがえのない、大切な人。
 貴女が……それを望まないという時までは、ずっとここに居ると……。

「……星が、綺麗ですね」
「ええ……」
 ユファの言葉に頷きながら、リリィは、この時が永遠に続くようにと願った。


イラスト: うに