【ランララ聖花祭】甘い日溜まり

● 真っ黒クッキーに愛を込めて


　2人で訪れた朝露の庭園。少し高く眺めの良い場所に腰を下ろす。咲き誇る花々に降りた露が陽射しを千々に散らし、駆け抜けて行く風と光の漣にネミンは感嘆を込めて呟いた。
「本当に綺麗なところですね、ここ……」
「そうだな」
　ネミンの様子が微笑ましくて、くすりと笑うアーシュ。そこでやっと思い出した風に、そして少しばかり慌てて風に、ネミンは可愛らしく装飾された包みを差し出した。
「クッキー、作ったのです……」
「ネミンの手作りクッキー？！」
　アーシュの心の羽が逆立つ。嬉しい。嬉しいけれど、手作りクッキー。ああ、でも――複雑な思いと共にアーシュが包みを開けば、ハート型のクッキーが現れる。と、同時に焦げた匂いが立った。一瞬やっぱりという表情をしかけたアーシュの顔を心配そうに見詰めるネミン。
「……いやいや、ネミンにしては良く出来てると思うぞ！」
　良く見ればチョコレートクッキーに見えなくも無い真っ黒なそれを一つ摘んでアーシュは噛み砕く。ネミンの表情が真剣さを増し、羽はぴんと伸びていて。
（「俺が食べるのを凄い真剣に覗き込んできてるのが、可愛いんだよねぇ♪」）
　そうアーシュが浮かべた笑みはちょっとだけ頑張っている風で、ネミンはしゅんと、膝の上で握った拳に目を落とした。
「やっぱりおいしくないですよね……？」
「……美味しい、デスヨ？」
　2つ目のクッキーを口へ放り込むアーシュ。確かに前に食べた物よりも美味しかったし、何よりも――。
「本当に、美味しい。ネミンが一所懸命に作ってくれたんだものな、それだけで最高だ」
「アーシュ君……」
　柔らかくネミンの髪を撫ぜるアーシュ。触れられてネミンの鼓動が速まる。感情が――溢れそうな恋心が涙となって眦に留まった。光る雫に愛しさが募り、アーシュは本当に唐突に少女の身体を抱き寄せる。
「わひゃっ……！？」
　腕の中でネミンの声。微かに震える身体を抱いてアーシュは耳元に唇を寄せた。
「……ありがとう、な。……大好きだぞ」
　一瞬の沈黙の後、アーシュの想いと言葉が染み透った心から喜びが花開いた。それ微笑みとして唇に刻んだネミンは、言葉にならない想いを乗せてアーシュの頬にそっと手を添えると唇に唇で触れる。唇から喜びが伝わり、アーシュは照れた風に――幸せそうに微笑んだ。アーシュからまた口付けて、一層強くアーシュはネミンを抱く。心に過ぎる思いは一つ。

　My better half.
　俺の片翼――最愛の少女。
　ネミンと一緒だから、俺は飛べるんだ。
　どこまでも。
　きっと、どこまでも。
　だから――ずっと一緒に。


イラスト： 都　和