『えと、あ〜んするです……』『は、はい…』

● 【幸せの時間】

 試練を乗り越えて出会ったソフィアとリアスは、あちこちを散策するうちに、やがてさえずりの泉の畔を訪れていた。
 木陰にベンチを見つけた2人は、少し歩き疲れた体を休めようと、そこに腰掛ける。
「実はフルーツタルトを作って来たのです」
 ソフィアは苺をたくさん載せた、手作りのタルトを取り出すと、いかがですか? と首を小さく傾ける。
 このタルトは、ソフィアにとって一番得意な料理。
 リアスの口に合うか、心配ではあったけれど……彼のためにと、一生懸命に作った物だ。
「良いんですか? ありがとうございます」
「はい、ええ……その……」
 その返事に、ソフィアはフォークを取り出すと……少し恥ずかしそうな仕草で、タルトを一口大に切ると、それをリアスの口元に運ぶ。
「……あ〜ん、してください?」
 忙しくて、なかなか会う機会を作る事が出来ない彼だから。
 だから……会えた時には、いつか物語で読んだような、『甘い恋人たちの時間』を、自分たちも過ごしたいと、そう思って。
 ソフィアは、とてもドキドキしながらも、そうリアスを見つめた。
「あ、あーん」
 その仕草に、リアスは恥ずかしそうにしながらも、大きく口を開け、運ばれたタルトを口の中に含む。
「ん……とても美味しいです」
「そ、そうですか? 良かったです……」
 頬を赤く染めながらも、微笑むソフィア。
 そんな彼女を抱きしめて、リアスは耳元に囁く。
「……ありがとうございます、ソフィアさん……大好き、ですよ。これからも、よろしくお願いしますね」
「リアスさん……。ずっと一緒にいて下さいね、いつまでも、いつまでも……」
 囁きに、ソフィアは微かな不安を覗かせながら、彼を見つめ返す。
 会う機会が少ないからか、自分に自信が持てなくて。リアスの気持ちが離れてしまわないかと……そんな、不安が、よぎってしまうから。
「ええ……」
 ソフィアの言葉に頷き返すと、リアスはふと思い立った様子で、彼女の手からするりとフォークを抜き取る。
「ソフィアさんも、あーんですよ」
「え? は、はい……」
 彼女にされたのと同じように、微笑みながらフォークを伸ばす彼の様子に、ソフィアは恥ずかしそうにしながらも、その唇を開く。
 そこに浮かぶ微笑みには、もう、先程浮かんでいた不安は、すっかり消えて無くなっていた。


イラスト: うに