濡れ場 〜夫婦の営み〜

● 奥様は自称王子

 いつもは仕事が忙しく、なかなか妻との時間を作ることが出来ないでいたシーザスは、もじもじしながらオージを夜のデートに誘った。さえずりの泉の畔を歩くうち、どちらからともなく手を繋ぎ指先を絡め合う。
 二人が結ばれてから初めて過ごすランララ聖花祭の夜。
 視線が合うと慌てて目を逸らして頬を染める。
 とても良い雰囲気だ。
 シーザスはコホンと咳払いをして、そういえば、と切り出した。
「今日はオージの誕生日だったな」
 オージの青い瞳が大きく見開かれる。
「何言ってるんだよ、シーザス!」
 僕の誕生日は18日じゃないか、とオージは憤慨する。
 まさか妻の誕生日を忘れるなんて。
 折角の良い雰囲気が台無しじゃないか。
「あーもう頭にきた! 僕、帰るからね!」
 慌てて引き止めようとするシーザスを少し強く突き飛ばし、オージは泉に背を向けた。

「……っ」
 息を呑むような気配に続いて、派手な水音が立つ。

 ばしゃああああん。

 今度はオージが慌てる番だった。
 まさか落ちるなんて、とオロオロしながら泉のふちまで戻って来る。
 シーザスは濡れた白の髪をかきあげ、赤い瞳で妻を見上げた。泉は然程深く無いのに、ひどく狼狽するオージはとても可愛らしい。突き落とすつもりは無かったんだと謝罪の言葉を口にしながら、彼はシーザスに手を伸ばす。
 唇に笑みを刻んで、今度はシーザスがオージを引き落とす。
 先程と同じくらい派手な水音が立った。

 冷たい泉の中で、二人は頭までずぶ濡れになる。
 濡れそぼった愛しい人の姿は、月明かりに照らされて艶を帯びていた。見詰め合い、どちらからともなく求め合う。シーザスは頬を赤らめて妻の身体を引き倒す。オージは拒まずに頬を染め、夫の腕に手で触れる。
「僕は欲張りなのかな……言葉だけじゃ、不安になるのさ」
 少し切なげにオージが囁く。
 寂しさを拭うことを願って、シーザスは彼に口付けた。
「今日は朝まで君を離さないぞ。まるでお菓子のようにビターでスィートな夜をプレゼントするから」
 冷たい水の中で、触れ合う身体が焼けるように熱い。
「これからも、ずっと一緒だ……」
 白いシャツの中に指を這わせ、シーザスは慈しむように愛を囁く。

 翌日、二人は仲良く風邪を引いた。



イラスト: Sue