真心をこめて
● 零れ落ちそうな星空の下で。
夜も更けた星屑の丘を歩いていたアウラが足を止め振り返った。
アウラが着せ掛けた白いファー付きのマントを翻し、真摯な表情を浮かべて小走りに追い付いて来たアクアローズが、僅かに呼吸を乱したまま微笑んだ。
その様子がとても可愛らしくて、アウラもふと笑う。
「手を……」
「――はい」
差し出されたアウラの手に、アクアローズは真白の繊細な手を乗せる。漆黒のレザーコートと風に惑うマントの裳裾が触れ合うほどに近付いて、2人また歩き出す。
歩きながら沢山の話をした。
大きくなりつつある旅団の事。家族の事。何気無い日常の、細やかで暖かな出来事。静かに、時折思いがけず声を立てて笑いながら、言葉を紡いで行く。
「皆……もう眠ったでしょうか」
「きっと、もう眠っていますわ。風邪など引かないといいのですけれど……」
まだまだ夜は寒い。残してきた子供達を思い、マントの前を掻き寄せるアクアローズ。寒さから守る様にアクアローズの細い身体を掬い上げ、アウラは妻を抱いたまま丘陵の中腹に腰を下ろした。
「せっかく2人切りなのですから……」
親ではなく夫婦――そして恋人同士として話をしましょう。アウラの眼差しはそう促している様で、仄かに頬へ朱を上らせながらアクアローズもこっくりと頷く。
暖かなお茶とココアクッキーを持参の篭から取り出して、星空の下で行う小さなお茶会。
それから2人だけの時にしか口に出せない話をした。
滅多に無い、2人切りで過ごす大切な時間。
交わす言葉と共に2人の心の中にきらきらと降り積もる。
「あの……どうぞ」
「はい。ありがとうございます」
甘く香るココアクッキーを一つ摘まんで、差し出すアクアローズ。夜闇の中でもそうと分かるほど、恥らうように頬を染める妻の顔をから目を逸らさずに、アウラはクッキーをそっと咥えて噛み砕いた。
クッキーもお茶も残らずゆっくりと堪能して、それから訪れる心地よい沈黙。
「……何時も、助けて下さってありがとうございます。貴方がいるから、私は……きっと、此処に居られるのですわ」
言いながら、アクアローズは見上げていた星空から愛しい夫へと目線を戻し、穏やかに笑う。
逸る鼓動を宥めて、歌う様に確かめるが様に思いを告げる銀鈴の如き声。
「……貴方が、好きです。何時までも……居られる限りは、お傍に居たいですの」
言葉と思いを受け止めて、アウラはアクアローズの熱い頬に手を添える。
「この先、きっと、色々な事が沢山あるでしょうけれど。ずっと、一緒に行きましょうね」
夜闇の中、2人の影が近付く。
触れそうなほど間近で、アウラはアクアローズに微笑みかけた。
「言葉にすると、照れくさいですが、愛していますよ」
囁きと吐息が溶け合う。
寄り添うアウラとアクアローズ。
遥かな高みでは星々が煌き震え、2人を包み込む様に静かな夜風が吹き抜けた。
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イラスト: 秋月えいる