今回渡してるのは一人だけですヨ?(汗
● 指輪
「やっぱり気付いてないですかね……」
事前に、女神の木の下で会いましょうと、書き置きを残してきたジーナス。
だが、どうやら、渡した相手は気づかなかったようだ。
ふうっと、思わずジーナスの小さな口から、似合わないため息が零れる。
「あ、あそこにいるのは……」
残念ながら、約束していた相手ではないが、ジーナスの友人を見つけたのだ。
ジーナスは、しばらく、その友人との会話を楽しむのであった。
「ジーナスさんっ!」
友人と別れた後、少し散歩をしていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「レイクスさん」
嬉しそうにジーナスは振り返る。
そこには、ジーナスが書き置きを渡した相手、レイクスがいた。
「やっとお会いできました♪」
「え? やっとって……もしかして、かなりお待たせしてしまいましたか?」
そういって、レイクスはすみませんと頭を下げる。
「あ、いいんです。レイクスさんも気づいていなかったようですし、あ、そうです。プレゼント!」
ジーナスはレイクスの目の前に、2つの包みを取り出した。
「どっちがいいですか? 一つだけ選んでくださいね」
「一つ、ですか……なるべくなら両方いただきたいですけど」
「ダメです」
ちょっと意地悪そうにジーナスは答える。その答えに笑みを浮かべながらも、レイクスは、ジーナスの右手にあるクッキーを選んだ。
「では、こちらを」
(「す、凄いっ! 私の手作りクッキーを選んじゃいました!」)
ジーナスは微笑みながら、その右手にあったクッキーを手渡した。
「大好きですっ♪」
そして、思わずジーナスはレイクスに抱きついた。
「ありがとうございます」
ジーナスが落ち着いたところを見計らって、今度はレイクスが口を開く。
「……遅れて申し訳ないですねぇ……お詫びといってはなんですが……どうぞですよ」
「わあ、指輪です〜♪」
きゃっきゃと嬉しそうにジーナスは、レイクスのプレゼントを貰った。
素敵な指輪をじっと見つめながら、嬉しそうに微笑んだ。
「………あ、あの、ジーナスさん?」
「はい、なんでしょう?」
どの指にはめようか迷っているジーナスに、レイクスは苦笑を浮かべながら、声をかけた。
「その指輪は、その、わたくしからの、婚約指輪です」
少し言いにくそうにしながらも、確かにそう、レイクスは告げた。
「こん……やく?」
一瞬の間の後。
「えっ? これ婚約指輪だったんですかっ?!」
前に一度、レイクスは数人の女性に指輪をプレゼントした事があった。
ジーナスは、今回もそれと同じだと思っていたのだ。
いわれてみれば、あのときの指輪とは、質が違う。
「………夢…じゃないですよね? なんだかちょっと信じられないです……」
頬を染めながら、ジーナスはその指輪をそっと、自分の左手の薬指にはめた。
その様子を、ほっとしたような笑みで見つめるレイクス。
「それじゃあ、夢で無い事を証明しましょうか? 今、ここで」
「え? レイクスさ……」
ジーナスの言葉を遮るように、レイクスはそっと口付けを交わした。
婚約者になった、証として……。
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イラスト: 上條建