命と友情の狭間に見えた地獄

● 命と友情の狭間に見えた地獄

「わぁ、ここが聖花祭の会場ですかー」
 フレディはマオを誘い、1度見てみたいと思っていたランララ聖花祭の会場を訪れていた。
 女神の木、さえずりの泉を通り、そして色とりどりの花が咲く、朝露の花園で足を止める。
「わぁ、綺麗ですね♪」
 周囲に咲く無数の花々を見回しながら、フレディは声を漏らすと花園を歩く。そんな楽しげな彼女の様子に、マオは微笑ましそうな視線を向けながら、その1歩後ろに続く。
「あ……。ねぇマオさん、頑張ってくださいね? いつも応援してます」
 フレディは、ふと何かを思いついた様子で屈み込むと、何輪かの花を摘んで立ち上がる。手に包まれているのは、カンパニュラとカツミレ……その即席の花束を、微笑みと共に差し出す。
「ん、あ、うん。……ありがとなぁ?」
 いきなりの事に、マオは目を丸くしながらもそれを受け取る。花束なんて、日頃受け取る機会はそう無いせいか……どこか嬉しげに、照れ笑いを浮かべながら。
「それから」
 はにかんだような笑顔と共に、フレディは1つの箱を取り出す。
 中身は、フレディからマオへの感謝の気持ちを詰め込んだ、手作りのお菓子だ。
「マオさん、いつもありがとうございます。マオさんといると、ホッとするし楽しいデス……これからも、マオさんはマオさんでいてください」
 そう、ラッピングされた箱を差し出すフレディ。

 でも。

「………」
 先程の照れ笑いはどこへやら。マオはフレディの顔と、彼女の手元にある箱を、激しく交互に見つめている。
 その顔には、だらだらと滝のような汗が浮かんでいる。
(「……コレ喰い物?」)
 マオの目線の先。差し出された箱。
 その蓋は、何故かどこか不自然に少しだけ浮いていて……その隙間から、どろりと、お菓子としてありえない何かが覗いている。
(「いや、だって煙出てないか? てか色おかしい! アレはただの焦げ色違うよ!?」)
 しゅわー、しゅこしゅこ。
 どろんどろどろ。
 ……青ざめていくマオの顔。
 彼は直感した。
(「……これは、死ぬ。確実に……!」)

 次の瞬間。
 マオは、超絶猛ダッシュで駆け出していた。朝露の花園を思いっきり突っ切りながら、物凄い勢いでこの場から逃げ出す。
「ちょっ……マオさん! お花が可哀相だから、走らないでください!」
 そんなマオの背中に、どこかズレた反応を見せながら大声で呼びかけるフレディ。
 けれど彼の耳には、その言葉は届いていないようだ。マオはただひたすらに……一心不乱に、ダッシュで花園を去っていく。
(「ら、ランララって……幸せなイベントとは限らんのやな……っ……!」)
 ……深い深い心の奥底から、そう思いながら。


イラスト: イケダケイスケ