二人の聖花祭 〜夜〜

● ランララの夕暮れ 〜夜景とショコラとプロポーズ〜

 今は夕暮れ。
 黄昏色に染まる空は、恋人達の瞳に美しく映った。
 そして、空は更に色を変えていく。
 僅かな陽の名残を残して、ゆっくりとゆっくりと夜を告げる。

「ガリュードの好みに合うと思うけど、どうかなぁ……?」
 そういって、訊ねる少女の名はミャア。
 手渡したのは特別なトリュフチョコ。
 とある旅団で販売していた材料を加味して、さらに美味しく仕上げていた。
「ん、うまいよ。珈琲にもよく合うしな」
 微笑みながら、そう答えるのは銀髪の青年、ガリュード。
 彼らは二人っきりで、秘密のお茶会を開いていた。
 暖かいコーヒー。
 ミャアの心のこもったチョコレート。
 この二つがあれば、どんな場所でも幸せでいられるだろう。

 ガリュードが何個目かのチョコを口に運んだときだった。
「ガリュードからは何かないのぉ?」
 ミャアがそう、質問を投げかける。
「むぐっ!」
 その後、ガリュードは激しく咳き込む。
「ガ、ガリュード、大丈夫?」
 ガリュードのコーヒーカップを手渡し、ミャアが心配そうに見つめていた。
「だ、大丈夫、ちょっと変なトコに入っただけだから」
 コーヒーを飲み干し、ガリュードはやっと落ち着きを取り戻した。

 いつもと様子が変なのに気づいたのは、ミャアだった。
 何か緊張しているような素振りを見せていた。
 だからこそ、ちょっと意地悪な質問を投げかけたのだ。

 一方、ガリュードはというと。
 喉が収まった後に立ち上がり、頭を掻きながら、夜景の方へと向かって数歩踏み出した。
「ガリュード?」
 思わず、ミャアが声をかける。
 ガリュードは勢い良く、服のポケットに手を突っ込むと、なにやら小さな箱を取り出した。
 それを、後ろにいるミャアに向かって突き出す。
「……え?」
 ガリュードから渡されたもの。
 小さな箱の蓋を開けると、そこには指輪が入っていた。
 ミャアの思考が、一瞬だけ停止する。
「よかったら左手の薬指に着けてくれ。えーと、その、まあ、そう言う意味だ……。返事は、急がねぇから……」
 その恥ずかしそうな響きのする言葉。
 顔をあわせるのがそんなに恥ずかしいのか、ガリュードはミャアに背を向けたままであった。
 だが、ミャアにはわかっていた。
 だからこそ……。
「あ……あたしを選んでくれて、ありがとう」
 幸せそうに微笑みながら、ミャアはそう答えた。

 二人はいつの間にか寄り添って、空を見上げていた。
 もうあのチョコレートもコーヒーもなくなってしまった。
 だが、ここには大切なものがある。
 ミャアの左手に付けられた、小さな指輪。
 二人の愛の証が……。


イラスト: オオタ