恥ずかしがらないで

● surprise attack

 二人は夜の星屑の丘を歩いていた。
「あ、雨……」
 エディが思わず空を見上げる。
 うっすらと曇っている場所から、ぱらぱらと小降りの雨が降ってきた。
「よ、よかったのじゃ。傘を持ってきていて」
 少し緊張した面持ちで、傘を広げるのは、アヤネ。
「準備がいいんだね」
「は、初めてのランララじゃからな……その、雨で濡れたら嫌じゃろう?」
 頬を染めながら、二人で一つの傘に入る。
 傘のせいか、二人はくっ付くかのように寄り添っている。
 それが、くすぐったく感じるのは、気のせいだろうか? 間違いなく言えるのは、今が幸せなひと時だという事。
「そういえば、今回が初めてだったっけ?」
 エディはうんうんと頷きながら、二人は丘を歩いていく。
「そ、そう……」
 アヤネの頷く言葉が途切れた。
 手にしていた傘は舞い、少し濡れた草原に倒れこむ。
 アヤネの唇には、エディの唇が重ねられていた。
「……エ……エディ……殿」
「んふふ、赤くなっちゃって。可ぁ愛い♪」
 顔を真っ赤にさせているアヤネを見て、エディは悪戯が成功した子供っぽい笑顔を浮かべて、アヤネの頭を撫でた。
 そう、これはエディの悪戯。
 しかも不意打ちだ。
「………で、でも……大好き…なのじゃ……」
 そんな悪戯をするエディがアヤネは好きだった。
 だからこそ、今日はその想いをエディに伝えたい。
 その分、余計に緊張してしまうのだが……。
「え? 今何て?」
 そんなエディの言葉を無視して、アヤネはさっと、自分の頭に赤いリボンを結ぶと。
「きょ、今日のプレゼントは、妾じゃ……」
 プレゼントを用意していなかったわけではなかった。
 そう、お祭りで手渡すはずのお菓子は、アヤネだったのだ。
 アヤネは顔を真っ赤にさせたまま、エディに抱きつく。
 エディは優しくアヤネを抱きとめて、その耳元で囁いた。
「今日は僕の負けだな。まさか、アヤネがプレゼントなんて、思いもしなかったよ」
 そして、もう一度、キスをした。
 長い長いキスを……。

 気が付けば、雨は止んでいた。
 まるで二人の幸せを邪魔し無い様にと天気が気を遣ってくれたのだろう。
 空には、雲のかわりに美しい星が瞬いていた。
 二人の夜はまだ、始まったばかり。


イラスト: オウヤカズキ