泉のほとりで…

● 月下逍遙

 月明かりで輝くさえずりの泉。
 リラは渡された指輪を見て、それから目の前に居るファルクを見た。
「あ……ありがとう、ございます……嬉しい……」
「リラさんにもらっていただけてよかったです」
 ファルクも嬉しそうに微笑み返す。
 頬を染めながら、リラは嬉しそうに、指輪を右手の薬指にはめた。

「泉、見に行きましょうか」
 ファルクがリラの手を引きながら、泉へと向かう。
 泉は空の月や星を映し込み、幻想的な光景を二人に見せていた。
「夜でも……月明りが映って……綺麗ですね……夕暮れの川とは、また違っていて」
「ええ、そう……ですね……」
 ふと、リラがファルクを見る。
「あっ」
 視線が合った。
 ファルクは気まずそうに頬を染めながら。
「……い、泉もいいですけどリラさんの事を見ていたいな、と……」
「わ、私の、ことよりも……その……」
 そのファルクの言葉にリラは慌てる。
「……嫌でしたか?」
 静かな場所に凛と響く声。
「い、いえ……嫌なわけでは……なくて……」
 ぶんぶんと頭を横に振りながら、否定する。
 実はリラも同じ気持ちであった。
 泉ではなく、自分を見ていて欲しいと願っていた。
 そう、それは儚い夢のように。
 だが、それは叶ってしまった。
 叶ってしまったと同時に恥ずかしさがこみ上げる。
「……よ、よかった……その、嫌だったら、どうしようかと……」
「そ、そんな事……ありません……」
 まるで心の中を見透かされたように、けれど嬉しかった。
(「私も本当は……泉より、貴方を見ていたいと……思います」)
 心の中でそっと、リラは呟く。
「……こうやって、二人でいられるのは幸せですよね……」
 頬を染めながら、ファルクが言う。
「は、はい……」
 二人は微笑む。
 美しい泉の側で、幸せそうにいつまでも、いつまでも……。


イラスト: 天神うめまる