〜スターダスト・メロディ〜

● 星降る夜に・・・

 届けられた手紙導かれ、アンジェラはランララ聖花祭の夜に星屑の丘を訪れた。
 丘を登りきる。目の前に星空が広がる。瞬く数え切れないほどの星々に息を呑むアンジェラの耳に一筋の旋律が届いた。
 始めは幻かと思った。夜風と微睡む草花が生んだ幻の音だと。けれどその旋律は途切れる事無く、音を辿って行けば次第に確かさを増した。
 暫く夜の丘を歩んだ先、丘陵の中腹に黒髪の青年がいた。
 ジョアン。
 届けられた手紙の主。
 アンジェラの眼差しに気付いたのかハーモニカを唇から離し、立ち上がるジョアン。アンジェラは耳の奥に残るハーモニカの音色を辿りながら、ゆっくりとジョアンに近付く。
 冷たい風が吹き抜ける。草花や木が鳴り、ジョアンの長い漆黒の髪と、アンジェラの長い真紅の髪が夜の中で交じり合う。
 ジョアンは目の前に立つ美しくも愛しい人に、手を差し伸べて微かに笑った。
「一緒に一曲どうですか?」
「ええ、ぜひ」
 軽やかな遣り取り。青年は娘の手を取って、丘の頂に誘う。ジョアンが銀のハーモニカに唇を添わせれば、アンジェラは胸の前で手を組み合わせ、全身を楽器として歌を奏でた。
 草の海を渡る風、触れ合いざわめく梢、夜鳴く鳥や獣の声と、虫達が呼び交わす音と、そして互いの紡ぎだす旋律と。
 全てと調和しながら星降る夜を彩る一つの曲が、ランララの夜を震わせる。
 目を伏せれば旋律が煌いて見える様。
 ただ思いのままにアンジェラは、言葉を音色に変えて解き放つ。
「貴方と共に歩んで行きたい――愛する人、ずっと私の傍にいて――」
 答える様にジョアンは、暖かな、包み込む様な音を響かせた。
 曲の終わり。静かに消え行く音色を惜しむ様にずっと目を伏せていた2人は、やがてゆっくりと双眸を開くと視線を絡ませた。
 歩み寄るジョアン。
 マントに招き入れられて、暖かな身体に身を添わせるアンジェラ。
「ありがとう」
 今日だけはと少しばかり大胆になって、アンジェラはジョアンの頬にキスをする。
 頬染めるアンジェラの顎を軽く持ち上げて、ジョアンは笑みを閃かせた。
「あんじー、キミといつまでも共に居ることを、この月と星たちに誓うよ」
 深紅の双眸を覗き込み、星の下で誓いを口にするジョアン。
 それから、アンジェラの頬にキスをした。
 その唇が紡ぐハーモニカの音色の様な、切なくも胸締め付けられるキスをした。


イラスト: 秋月えいる