***朝露の花園***〜2人だけの場所〜

● 2人だけの場所

「星、出てきちゃいましたの……」
 ヒナキは、いつものおっとりした口調でそう言った。
「ああ、そうだな……」
 ヒナキの言葉にヒカルは頷く。
 気が付けば、辺りに人気はなく、二人きりになっていた。
 そよそよと揺れる花が、夜風に身を任せている。
 ここは、朝露の花園。
 昼間はあんなにも賑やかだった場所も、もう静かになっていた。
「わあ、綺麗な花びらが……落ちていますの……」
 沢山の花びらが落ちている場所を見つけ、ヒナキはそこに向かう。
 ヒカルもヒナキの後をついてくる。
「こーんなに……いっぱい♪」
 花びらをひとつひとつ手に取りながら。
「これは……何の花……なんですの?」
 と首を傾げるヒナキ。
「えっと確かそれは……」
 ヒカルが花の名前を思い出そうとしているそのとき。

 ぶわあっ!!

「わっ!」
 沢山の花びらが、ヒカルに掛けられた。
「ひ、ヒナ!?」
 驚くヒカルの姿を見て、ヒナキは微笑む。
「もう、ヒナー?」
 怒る代わりにこつんと頭を小突いて。
 いや、それだけではなく。

 ちゅ。

 不意打ちのキス。
「あっ」
 見る見る真っ赤になるヒナキ。
 その様子にヒカルは僅かに微笑んだ。

 一つだけ。
 命にかけて誓えることを。
 捧げよう、貴女に。
 この身朽ちて果てる時まで、此処から離れない事を……。

 二人はもう一度、向かい合う。
「……ずっと、大好きだから……な……」
 照れたようにそう告げるヒカルに。
「えと……ヒカル……その…………ヒナも大好き、なの……」

 そして、またキスをした。
 今度は不意打ちではなく、二人の気持ちを込めたキスを交わす。
 二人の傍では、相変わらず花達が夜風で揺れていた。


イラスト: 赤十三