”long long Line”(純白のマフラー)
● 閉月羞花
「ティア、寒くないかい?」
星屑の丘の一角にある、木の根元へと腰を下ろしたゼソラは、その膝の上にティアを座らせると、彼女の首元にマフラーを巻いた。
2人で一緒に巻いても、十分なくらいの長さがあるそれを、ゼソラは次に自分の首にも回して……2人で一緒に、1つのマフラーで暖を取ると、空いた腕はティアの体へと回す。
彼女を抱きしめながら、一緒に見上げた空には、既に夜の帳が下りていて……数多の星達が、きらきらと煌めいている。
「きれいですね……」
ゼソラの腕の中から、星空を見上げながら……ティアは、ふと考える。
この1ヶ月で、自分はどれだけ成長しただろう?
まだ、ほんの小さな子供でしかなかった自分の背は、すっかり伸びたし、髪も結うようになった。
(「私達のような種族の場合、身体の成長は心の写し鏡。私は、それほど自分が変わったとは思えませんけど……もし変わったというなら、それは、ゼソラさんのおかげ……」)
一緒にいるだけで楽しくなる。
触れられれば、嬉しくなる。
そして、彼女の事を想うだけで、心に暖かな力が湧き上がってくる……。
(「ゼソラさんがいれば、きっと、どんなものも怖くない……」)
……そう思うティアだけれど、不安が無いといえば、嘘になる。
ゼソラは恋多く、そして魅力に溢れる人だから……恐らくは、自分だけの人にはなり得ないだろう。
でも……今、この時だけは、2人きりの時間だから。
「そういえば……まだ言ってませんでしたね。私、ゼソラさんが……あなたの事が、好きです」
ありのままの、自分の素直な気持ちを伝えておきたいと、ティアはゼソラを見つめる。
数ある愛のうちの、1つであろうと構わない。
自分の、この気持ちは、決して変わらないのだから……。
「ティア……」
彼女の言葉に、ゼソラはそっと目を細める。
来年も、その次も、一緒に居れたら嬉しいと……決して口には出さないけれど、その気持ちを抱きながら、ゼソラはティアを見つめ返して。
「……あ。お月様、隠れちゃったねー。……星は、まだ見えてるけど……」
つ……と。
優しく、伸びたゼソラの指先が、ティアの顎に触れる。
視線が絡む。
吐息が――触れる。
(「ゼソラ、さん……」)
瞳を閉じて。触れた感触に、ティアは嬉しさに胸を熱くさせて……。
(「……あなたがずっと、幸せでありますように……」)
重なった影が、やがてまた離れるその瞬間。瞼を開けたその時、頭上に流れていく星を見たティアは、そう心からの願いを、消えゆく星へと祈るのだった。
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イラスト: 山葵醤油 葱
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