二人の時を in 女神の木

● うららかな陽射しの中で

 薄紅色のラグが蒼天に翻り、女神の木の下で春の緑を湛える下草の上をふわりと覆う。風に靡き掛けたラグへ膝を付き、促す様にレイへ手を伸べるサードムーン。
「ちょっと、遅くなっちゃたけど、ゆっくりしよう」
「うん。とってもいいお天気だね」
 ラグに腰を下ろして、地平の方へと傾き掛けながら最も強く暖かな陽射しをランドアースへと注がす齎す太陽を見上げ、レイはゆったりと伸びをした。
 それから、茶器を並べてお茶会の支度。さらさらとティーポットに茶葉を入れる音。湯を注ぐ暖かな音。蒼穹から、丁寧に紅茶を入れるレイへ目を戻しサードムーンが笑った。
「本当、いい天気になってよかったよな、予定通りピクニックもできるし」
「そうだね。少し冷たいけれど風も気持ちいい」
 そよ風にレイの真白の髪が柔らかく靡く。ティーカップから豊かな香気と湯気が上がり、サードムーンの心を満たした。微かに頬染めて、レイが差し出す可愛らしい籐の籠。同じ位に照れながら、サードムーンは籠を両手で受け取る。
 籠の中では小さなチョコレートの山が、艶々と光っていた。
「ありがとう。すぐに食べて――……」
 チョコレートの小山から顔を上げると目の前にハートの形のチョコレート。
 その向こう側に、レイの笑顔が見えた。
「はい、あーん♪」
 照れ隠しに冗談めかしてレイが摘まんで差し出したチョコレートをぱくりと一口で食べるサードムーン。誤ってレイの指先まで咥えてしまって、サードムーンは慌てたように体の前で手を振った。
「わ、私はこういうのには慣れてないから。でも……あなたとならこういうこともいいかもしれない」
「本当? 嬉しい」
「来年もそしてその先もレイと一緒にいられたら幸せだな」
 照れながら見詰め合うサードムーンとレイ。笑い声が止んで、暖かな沈黙。レイは悪戯っぽく微笑むと、サードムーンの唇に指を添えて心が急かすままに口付けた。
 一瞬蕩け、また離れる唇。
 サードムーンの黒い瞳を覗き込むレイ。
 先を越されてしまったなと微かに唇へ笑みを浮かべて、サードムーンは少女の滑らかな頬に手を添え、真摯な眼差しで掛け替えの無い恋人を見詰める。
「俺は、この先ずっとレイを愛し続けるよ。くさい台詞だけどこういう時以外は言う機会がなさそうだからな」
 言って、唇を寄せる。
 吐息が交じり合い、甘いチョコレートの味。
「大好きで、大切だから……ずっと一緒にいようね」
 心ゆくまでキスをした後に、レイはサードムーンにぎゅっと抱き付き、囁くように言う。
「ああ、ずっと一緒に」
 レイの柔らかな体を抱いて、サードムーンは誓う様にそう答えた。
 

イラスト: 芳田ひふみ