想いを水面に映して

● 想いを水面に映して

 そわそわとミコトは彼が来るのを待っていた。
 その手には彼に手渡す為のプレゼント。
「もし、来なかったらどうしよう……」
 少し不安になりながらも、ミコトは彼が来るのを待っていた。

「え〜っと泉の所だったっけ?」
 一方、ミコトの想い人、ニケはいたってのんきであった。
 小さな白い翼を揺らしながら、ニケはミコトの待つ泉にたどり着いた。
「やっほ〜ミコ姉ちゃん! 待たせてゴメンね〜」
「もう、心配したんだからね」
 ミコトは安心したような笑みを見せながら、ニケの元へとやってくる。
「あ、これプレゼント。大したものじゃないけど、食べてくれると嬉しいな♪」
 そういって、手渡したのは可愛くラッピングした小さな箱。
 その中にはミコトの作ったお菓子が入っている。
「え……これって……ワ〜イありがとう〜! もちろん貰うよ〜。嬉しいな〜♪」
 にこにこと笑みを浮かべながら、ニケは嬉しそうにそのプレゼントを受け取った。

 二人は泉の畔に座って、いつものように二人だけの時間を楽しんでいた。
 とりとめもない会話。
 それだけでも、二人にとって、十分に幸せな時間であった。
(「あ、ミコ姉ちゃんこの時期なのに寒そう……」)
 少し涼しげな格好をしているミコトにニケは気づいた。
 案の定。
「くしゅっ!」
 ミコトがくしゃみをする。
「……あははは、やっぱりこの季節にこの格好はちょっと寒かったねぇ……」
 そういって、バツの悪そうにミコトは苦笑を浮かべた。
「そうだ♪」
 ニケは立ち上がり、自分のコートを脱ぎ出した。
「ボクはいいからこれ着て温まって……」
 そういって、ミコトにかけてあげようとした所。
「わぷっ!!」
 突然、ミコトはニケを抱きしめた。
 ニケの頭は見事、ミコトの胸に飛び込んでいく。
「……ごめんね、突然。なんか急にこうしたくなって、ね?」
(「言えないよ、ドキドキしてたまらずニケさんを抱きしめちゃったなんて……」)
 ミコトは顔を赤く染めながら、心の中でそう呟いた。
 いつの間にか互いに抱きしめあう形になった二人。
「ねぇミコ姉ちゃん、ボクもう少しこうしてたいけど……このままでいても良いかな?」
「え?」
 ちょっと驚きながらも。
「うん、もうちょっとこのままで……だね」
 幸せそうに微笑んで頷いた。

 揺れる水面に映る二人。
 静かな空間に、鳥の囀りだけが響いている。
 二人だけの幸せな時間は、いつまでもいつまでも、二人の胸の中に……。


イラスト: さとをみどり