To beloved you an ease(愛しき貴方に安らぎを)
● 二人だけのコンサート
柔らかな日差しが差し込む花園には、優しげな旋律が響いていた。
咲く花達の間に置かれているのは純白のピアノ。そこに座るシルフィーナの指先から、その音色は紡がれている。
「フィーナ」
「……あ」
しばらくピアノを弾いていたシルフィーナだったが、投げかけられた言葉に気付くと、視線を上げながら指を止める。
そこには、シルフィーナが待っていた相手、ヴィスの姿があった。
近付いて来る彼の姿を見ながら、シルフィーナは微笑むと、用意しておいた包みに両手を伸ばす。
顔が赤くなっていくのを感じながらも、1つ大きく深呼吸をして……シルフィーナは、すぐ傍まで来たヴィスの前に立つ。
彼の為にと用意したプレゼント。中身は、手作りのチョコレートだ。
「ヴィス、これ……。上手く出来たか、解らないですけど……」
「ありがとう、フィーナ。……今食べてもいいかな?」
差し出された包みを笑顔と共に受け取ると、そう問いかけるヴィス。シルフィーナがこくりと頷き返したのと、どちらが早かったか……ヴィスは早速包みを開けて、そのチョコレートに指を伸ばす。
「うん、とっても美味しいよ」
チョコレートを1つ食べて、すぐそう感想を漏らしている間にも、ヴィスの指は次のチョコレートへと伸びる。
そんな彼の様子に、シルフィーナは頬を赤く染めながらも、良かったと嬉しげな表情を広げる。
「……そうだ。フィーナ、もう1度弾いてくれないかな」
チョコレートを食べていたヴィスは、ふと口を開くと、傍らのピアノを見やりながらリクエストする。
「ピアノですか? ええ、勿論です。では……」
すぐに頷き返すと、シルフィーナは再びピアノの前に座り、また先程のように旋律を紡ぎ始める。流れるのは、ゆったりとした穏やかな曲……それに耳を傾けながら、ヴィスは辺りの芝生の上に、連れて来たペットと一緒に寝転がる。
暖かい太陽の陽射し、心地よく響く音色。
合間に、ときどき重なるシルフィーナの歌声が、ヴィスを更に心地良くさせて……暖かく、穏やかな眠りが、ゆるやかにヴィスを包んでいく。
「……あら……?」
ふとシルフィーナが気付いた時には、ヴィスの瞼はすっかり閉ざされて、その口からはすやすやと寝息が漏れていた。
それに気付いたシルフィーナは、演奏の指を止めると、そっと立ち上がってヴィスの元へ近付いていく。
「……おやすみなさい。……未来の旦那様……」
そう耳元に囁くと、シルフィーナはそっと、ヴィスにキスを落とし――。
ひだまりの花園では、穏やかなピアノの調べと、優しげな歌声が響き続けていた……。
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イラスト: 秋月えいる
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