ランララ聖花祭 -Meine Liebe-

● ずっと、離さない

「ローゼさん……」
 女神の木の前で、クリストフェルはロゼルティーンへと腕を伸ばした。
 ロゼルティーンの肩に、背に、腰に。
 するりと滑らせるように腕を回して、その身体を抱く。
「愛していますよ、ローゼさん。あなた以外に、何も見えないほど……」
 腕の中に居る愛しい人。
 その耳元に、クリストフェルは囁いて。
「あ、あの、私も……愛して、ますから……」
 それに呼応するように紡がれる、ロゼルティーンの言葉に、クリストフェルは心の底から嬉しそうに笑みを広げる。
(「この気持ちは、偽りじゃない……あなたの目に映る私の姿も、偽りではない……それが何より、嬉しい」)
 言葉では、言い尽くせないほどに湧き上がる愛しさ。誰よりも……何よりも愛していると、そう眼差しに込めてロゼルティーンを見つめる。
「その……これを……」
 そのロゼルティーンはといえば、小さな包みを1つ取り出すと、それをクリストウェルの方へ差し出す。
 ラッピングされた、その中身はチョコレート。
 ランララ聖花祭にちなんで、クリストフェルの為に用意した品だ。
「私に? ……ありがとうございます」
 それに一瞬驚いたように目を丸くして……またすぐに、この上ない程の笑みを称えながら、そう受け取るクリストフェル。
 ……自分は、なんと幸福だろう。
 そう思わずにいられない。
「……あなたは、私にたくさんのものをくれた。それに感謝しています」
 風に揺れるロゼルティーンの髪に、そっと指先を這わせて。梳くように優しく動かしながら、クリストフェルはまた囁く。
 指先を、髪の先の方へ。頭の後ろの方へ……優しく這わせて、そして。
 包み込むように耳元に触れると、クリストフェルはそっと、ロゼルティーンへと近付く。
 まるで引き寄せられるかのように。
 その唇に。
 自身の唇で――触れる。
(「――ああ……」)
 こうして、唇を重ねあう事が出来る。それはなんて幸せな事なのだろうか――。

 触れて、重なり合った2つの影。
 女神の木の前に浮かぶシルエットを、月明かりは優しく照らしていた……。


イラスト: 上條建