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遠い空、近い雲
見上げる夜空には、まるで降ってきそうなほどの星が輝いていた。
少し肌寒い風に身をゆだねながら、スタインは今までの事を思い出していた。
スタインはかつて、ノルグランド傭兵大隊と呼ばれる護衛士団に所属していた。
信頼する仲間と共に、幾度と無く繰り広げられた、トロウルとの戦い。
その激しい戦いは生きるか死ぬかの瀬戸際ばかり。
だが、今はもう、その戦いも無い。
トロウルとの戦いに決着が付いた今、平和な時間を……穏やかな時間を過ごしている。
むに。
「え?」
突然、ほっぺたを突付かれた。
「スタインさんったら〜」
その声にスタインは、はっと気づく。
「何、難しい顔をしていらっしゃるんですの?」
「すみません、メイさん……」
そう、今はメイと共にいるのだから。
「その、1年前の事を思い出してしまって……」
「ノルグランドの……ですわね」
メイの言葉にスタインは頷いた。
「わたくしも、去年の事を思い出しておりましたの」
「メイさんも?」
ええと頷き、メイは続ける。
「わたくし、去年の今頃、さえずりの泉でスタインさんを見ましたの」
「え? ちょ、ちょっと待ってください!」
何故なら、その日、スタインはその場所にいけなかった。なのにメイは……。
「さえずりの泉がスタインさんの姿を見せてくれましたの……少し疲れていたようですけど、怪我も無く無事な姿を見れて、ほっとしましたわ」
もしかしたら夢かもしれませんけど、とメイは付け加える。
その言葉に、スタインはあっと声を出した。
「そういえば、一度だけ……メイさんの声が聞こえた気がしたんです。気のせいだと思っていたんですが……」
「スタインさん……」
メイはぎゅっとスタインを抱きしめる。
「メイ……さん……」
「今日は、ずっとこうしていても……かまいませんか?」
「ええ……」
会えなかった時間を埋めるように、二人は寄り添った。
ランララ聖花祭の日。
星屑の丘で二人はずっと、夜空を眺めていた。
幸せそうに寄り添いながら、ずっと……。
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イラスト:琥姫ミオ
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