● 女神の木の下で安らかな眠りを

「なんとか、着いたな……」
 ようやく見えて来た女神の木を見上げ、セリオスは心の底から、そう呟いた。
 その場所に、愛しい人の姿を探せば、心配げに立つティエランの姿が、遠くからでも分かった。
「セリオスさん……」
 ふと、彼女の視線がセリオスの方を向くと、その表情に安堵が浮かぶ。
 彼を待っていたティエランは、無事到着した事にほっとする。その姿が少しボロボロになっていたのは、気懸かりではあったけれど、案ずる言葉をセリオスの方が先に「心配ない」と遮る。
 だからティエランは、その言葉を信じて、彼を心配するのはそこまでにする。
「それよりも、待たせてすまない」
「いいえ、そんなこと……」
 更に続けられた彼の言葉に、ティエランはふるふると首を振る。
「大丈夫ですから、気にしないで下さい。それよりも、疲れたでしょう? お昼にしましょう」
 そうバスケットを掲げて見せると、その蓋を開くティエラン。中には、手作りのお弁当が詰まっている。
 二人は女神の木の側に座ると、お弁当の中身を広げる。そして、セリオスのペットのジルバと共に、三人で憩いのひとときを楽しむのだった。

「ティエランの料理は美味いな」
 やがてバスケットを空にすると、セリオスはちそうさまと告げて、そう木陰に寄りかかった。
 そよそよと吹く風が微かに葉を揺らし、その隙間から射し込んで来る木漏れ日が、とても心地よい。
「気持ちいいですね……」
 その言葉にティエランが瞼を閉じると、身体を包む周囲の自然が、また気持ちよくて……。
 彼女はそのまま、セリオスの体に寄り掛かり、セリオスもまた、ティエランの方へ体を寄せた。
 二人で寄り添いながら過ごす昼下がり。やがて、どちらともなく、二人は心地よい眠りへと誘われていく。
 あとは、気持ち良さそうに寝息を立てる二人の姿だけ……。
「くぅん?」
 そんな彼らの元に、近くで遊んでいたジルバが戻って来ると、不思議がるかのように鼻を鳴らして。まるで、飼い主に倣うかのように、その足元に擦り寄ると、そのまま体を丸くして、ジルバもまた眠りに落ちていく。

 頭上には青空、緩やかに吹き抜けるそよ風。
 暖かい木漏れ日に包まれながら、二人と一匹は夕暮れまで、心地よい眠りの時を過ごすのだった。


イラスト:牧 ちさと