●聖なる女神の庇護の元
「……エルシエーラさん!」
試練を越えたオーエンは、女神の木の前へと駆け込むと、そこで待っていたエルシエーラの名を呼んだ。
自分を見て、微かに笑うエルシエーラの元へ向かうと、オーエンは彼女を抱きしめる。
こうして無事、彼女と出会う事が出来てよかったと、そう心の底からの想いを込めて。
「オーエンさん……これ、あなたへのお菓子です」
自分を抱きしめる大きな腕を感じながら、エルシエーラはオーエンを見上げ、両手にずっと抱えていたお菓子を差し出した。
今日は、ランララ聖花祭。女神ランララの伝承にちなんで、大切な人へお菓子を贈る日。
だから……エルシエーラからは、オーエンへ。
「ありがとう、嬉しいよ」
その箱を、オーエンは笑顔と共に受け取った。
「やれやれ、それにしても変な試練だったな……」
「どんな試練だったんです?」
一緒に、朝露の花園を散歩しようかと歩き出す2人。その話題は、ついさっき挑んだばかりの試練へと向く。
もちろん、怪しい内容だからといって、試練を途中で投げ出す訳にはいかない。無事、見事に試練を乗り越えたからこそ、オーエンはここにいるのだが……正直、もう1度という気分にはなれない。
一方のエルシエーラは、元から、こういうお祭りの好きな性格ゆえか、一体どんな試練があるのか、かなり興味心身といった様子だ。
オーエンが、自分の遭遇した試練について説明すると、エルシエーラは楽しそうにくすくす笑う。
「そんな試練まであるんですか。それで? オーエンさんは、どっちの答えを選んだんです?」
「いやあ、それが……」
見事に試練に引っかかってしまった……なんて話をするのは気が引けたけれど、エルシエーラが楽しいなら、それはそれで良いかと、オーエンは思い直すことにする。
「っと……着いたな」
そうして、彼らが辿り着いた先には、一面の花園。
心地よい花々の香りが、二人を包む。
「せっかくだから、少し座っていくか……ああ、これも食べよう」
オーエンは貰ったお菓子を開けると、それに加えて、持参した酒を取り出す。
「どうだ、エルシエーラ」
「ふふ、いただきます」
甘いお菓子と一面の花々、そして他愛の無い話題を肴に、二人は少しずつ酒を楽しむ。
「そろそろ空ですね。……また、別の場所に行ってみましょうか」
それらが底をついた頃、エルシエーラが立ち上がると、オーエンも頷き。二人はまた、別の場所へと足を向ける。
「そうだ。他の試練にお邪魔してみませんか?」
「えっ」
さっきから気になっていたのか、そう提案するエルシエーラに、オーエンは苦笑いして、足取り軽く進む彼女の背を追いかけるのだった。
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イラスト:海見有里
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