●親離れするのははやいわよ

(「ようし……大人なクウェルタのランララ第2弾!」)
 人知れず、クウェルタは両手を握り締めて気合を入れた。
 今日はランララ聖花祭。
 もうすっかり大人〜なクウェルタには、1つの野望(?)があった。
 それは、母親のシンシアを膝枕すること。
 たまには娘に甘えるがいい! とばかりに木陰に座ると、クウェルタは「ほらほらお母様」とシンシアを手招きする。
「まぁ」
 膝をぺちぺちやりながら誘う娘の姿に、シンシアはくすくすと笑いながらも、その言葉のまま、クウェルタの膝に頭を乗せて寝転がる。
 そうしてシンシアが見上げれば、クウェルタの顔には、母を膝枕して、どことなく満足げな笑顔。
 ぽかぽかとした陽射しが差し込む中で、ゆったりと過ぎる時間を過ごす2人……だが。

(「……今日、朝早かったのからねむ……はっっ!」)
 暖かな陽気に、ついうとうと睡魔に襲われ、クウェルタはハッと顔を上げる。
(「いけないいけない。こういう時は、眠気覚ましに頭を使うといいのだ」)
 膝枕の最中に眠ってしまう訳にはいかないと、落ちそうになっていた瞼を開くクウェルタ。
(「あ、そうだ算数! 計算なり暗算なりして知恵熱出れば、目もさめようほどに!」)
 ぴかーん! と閃くと、すぐさま羊の数をカウントスタート。
 羊が一匹。羊が二匹。羊が三匹。羊が四ひ……。
「……くかー」
「あら、寝ちゃったの?」
 ふと、クウェルタから聞こえた寝息に、シンシアは苦笑した。
 その間にも、すっかり眠ってしまったクウェルタの体はゆらゆら揺れていて……ふとした拍子に、彼女の体が倒れそうになるのを、シンシアは起き上がって大急ぎで支える。
「もう……仕方ないわね」
 確かに今朝はとても早起きで……起こすのだって一苦労したほどだから……ある意味、こうなってしまったのは、仕方ないのかもしれない。
 シンシアは、膝枕している方が先に寝ちゃってどうするのかしら、なんてくすくす笑いながらも、そんなクウェルタの体をゆっくりと寝かし、膝枕してあげる。
「お疲れさま……」
 そう囁くシンシアの声にも、クウェルタは目を覚ます事なく眠り続けている。
 その姿は、本当に本当に、気持ち良さそうで……。
 ……まるで、母親の側だから、ここまで安心して眠れるのだと、そう言っているかのようだ。

「……あーあ。あとで足がしびれちゃったら、どうしようかしら……」
 そう零しながらも、クウェルタの頭を撫でるシンシアの瞳は、とても優しくて。
 その微笑みは、とっても、とってもクウェルタが大切だという、そんな母の愛情で満たされていた。


イラスト:山本 流