● あなたと過ごす幸せ

 さわさわと、淡い色の花が、風に揺られている。
「やっと着きましたね……」
「ホント、大変な試練だったよ」
 ふうと一息ついて、リオネルはシスを見る。
「シス、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
 にこっとシスは微笑んだ。

 今、二人は朝露の花園に来ている。
 綺麗な花々に囲まれた素敵な場所を見つけた二人は、そこで疲れた体を休めた。
 二人とも、実は甘いものが大好きであった。
 甘い香りに包まれる、このランララ聖花祭のようなお祭りは、二人にとって、嬉しいイベントの一つでもあった。
「あの、リオさん……」
 おずおずとシスは、綺麗にラッピングされたお菓子の箱をリオネルに手渡す。
 日頃の感謝と、友情とも愛情ともつかない気持ちをこめて、そっと……。
「ありがとう、シス」
 リオネルは嬉しそうにその箱を受け取る。
「開けてもいいかな?」
「え、ええ」
 シスの頷きを確認して、リオネルはその包みと、箱を開いた。
「わあ……」
 少しいびつなチョコブラウニー。ただのブラウニーではない。リオネルが好きなナッツも入ったブラウニー。そう、箱の中にあるのは、シスの手作りナッツブラウニーであった。
 嬉しそうな歓声を上げるリオネル。
 だが、シスはそれとは逆に不安げな表情を浮かべていた。

 かつてシスは、お菓子を作ってリオネルに渡したことがあった。
 昨年の事、シスが焦がしてしまったお菓子をリオネルが食べた事がある。
 その際、リオネルはなんでもないと言っていたが、しっかりと腹痛を起こしていた。

 シスは昨年のその苦い記憶を思い出し、また同じ事を繰り返さないか。
 それだけが心配であった。
 そう思いながら、シスがそっと切り分けたナッツブラウニー。
 美味しいお菓子をと心を込めて作ったもの。
 今年は大丈夫だろうか?
 リオネルに手渡す手が、僅かに震える。
 リオネルは些細な事に気づかないのか、嬉しそうに受け取って。
「それじゃ、いただきます!」
 フォークで切り分けて、一口食べる。
 シスは半ば窺うように、リオネルを見つめている。
「うん、とっても美味しいよ!」
 ぱくぱくと嬉しそうに食べるリオネルに、シスはやっと笑みを見せた。
 どうやら、今年は大丈夫な様子。
「お茶を注ぎますね」
「あ、うん。ありがとう」
 シスの注いだお茶を受け取り、さっそく口にするリオネル。
 二人の甘い幸せなお茶会は始まったばかり……。


イラスト:鳥居ふくこ