● この温もりを護りたいから…

 さえずりの泉のほとりで木漏れ日を浴びながら、ホムラは穏やかな眠りに包まれていた。
 付き合って2年目になる恋人、ラクズと共に泉のほとりを訪れて、一緒にお弁当を食べた後、彼女の膝枕でまどろみながら過ごす昼下がり……。
 それは、とても心地よくて穏やかな時間。

「…………」
 眠る彼を膝に乗せながら、ラクズはぼんやりと水面を眺める。
 時折、小鳥達のさえずりが聞こえる中、太陽の光を受けてキラキラと輝く泉。そよそよと吹く風に、ほんの僅かだけ波立つ水面の動きを、無意識に、どこかぼうっとした表情で追いかける。
「ん……」
 それから、いくらかの時間が過ぎた頃。
 不意にホムラの口から声がこぼれると、彼はゆっくり瞼を開いた。
 映るのは木漏れ日と、そして、ぼんやり水面を眺めているラクズの顔。
 その視線がホムラの目覚めに気付いて動くと、彼の顔を覗き込む。
「ホムラ……起きたのなぁ〜ん……?」
「うん、おはよう。……重くなかった?」
 小さく囁いたラクズの言葉に頷き返し、そう尋ねるホムラ。膝枕での昼寝は気持ち良いのだけれど……ずっと頭を乗せたままでいるのは、とても大変だったのではないか、と。
「平気……剣の方が、ずっと重いから……なぁ〜ん」
 そんなホムラに、ゆっくり首を振るラクズ。だから大丈夫だと、微かに笑ってみせる彼女の様子に、ホムラはそっと手を持ち上げると、その指先でラクズの頬に触れた。
「ホムラ……?」
 何かを確かめるような指先に、怪訝そうに首を傾げるラクズ。
 静かに、彼女の瞳を見上げたホムラは、ほんの少しだけ不安そうに呟く。
「これ……夢じゃ、ないよね?」
「夢と、思うの……?」
 ラクズは、その視線を受け止めて、しっかりと応える。
「ちゃんと……ここに、いるなぁ〜ん」
「……そう、か。そうだよな……」
 彼女の言葉に表情を和らげるホムラ。
 そう、この指先に感じる温もりが、夢であるはずがないのだから……。
 頬に触れたまま、ホムラがふっと笑うと、それにつられるようにラクズも微笑んだ。


イラスト:TAKI