● 大好きな人と、幸せなひと時

「ヴァル様、これからどうします? 今度はあっちに行ってみます? それとも、少し休んでお喋りしましょうか?」
 女神の木の前で、コーシュカはそうヴァルを振り返った。
 普段は互いにそれぞれ忙しくて、なかなか会うことが出来ないけれど……今日はランララ聖花祭、久しぶりのデートの日。それがとても嬉しくて、コーシュカはぱっと、満面の笑みをヴァルに向ける。
「それとも……お菓子にします?」
 そう取り出したのは赤いケーキボックス。中にはコーシュカ特製、チョコシフォンケーキが入っている。
 2人の付き合いが始まってから、今年で三年目。だから、これまでの感謝と、そして、これからもよろしくという気持ちと。
 そして、このケーキのように、ふわふわな時間を一緒に過ごせるように……という願いが、このケーキにはたっぷりと込められている。
「コーシュカ、ありがとう。……一緒に食べようか」
「はい!」
 ヴァルは箱からケーキを取り出して、コーシュカとそれを半分ずつ分ける。
(「気に入っていただけますかしら……?」)
 確か甘いものは好きだったはずだけど、果たして彼は喜んでくれるだろうか?
 そうドキドキとコーシュカが見つめる中、ヴァルは一口食べると「うん、とても美味しいよ」と彼女に頷き返した。

 柔らかくて暖かい陽射しが降り注ぐ下、木陰に寄りかかりながら食べるケーキは、とても美味しくて。
 2人で、お腹いっぱいになるまで食べたら……今度は、何だか眠くなってきて、コーシュカはつい、うとうとしてしまう。
 今日、はしゃぎすぎたのと、日頃の疲れがたまっていたのと……その両方も影響しているのだろう。
「おっと」
 滑るように倒れそうになった彼女の体を、ヴァルは受け止めると、その頭を自らの膝に乗せると、その髪を優しく撫でる。
 とても、愛しそうな眼差しを浮かべながら……。
 その感触に、眠っているにも関わらず、コーシュカの頬が緩む。
 離れていても、心はいつでも傍にあると信じている。でも、何よりも今、彼がここにいるという実感は、コーシュカにとって、何物にも代え難いものだから。
 眠っていてもなお、それを感じ取っているかのように。
「……」
 その様子に、ヴァルも笑うと、彼女の頭を撫でながら、自身も瞳を閉ざした。

(「あ……」)
 やがて、優しい感触に包まれながら、コーシュカは目を覚ます。
 でも、気付かれないよう瞼は閉じたままで、そっと、寝たフリ。
 だって……。
(「もう少しだけ、この幸せなひとときを楽しみたいんですもの……」)
 くすぐったく感じるような、幸せに満ち満たされながら、コーシュカはくすりと微笑む。

(「……これからも、よろしくお願い致しますね。未来の旦那様……」)


イラスト:さとをみどり