● 二周年記念〜3度目のランララ聖花祭〜

 今日はランララ聖花祭。さえずりの泉では、沢山のカップル達が訪れていた。
 時折吹く風は冷たいものの、日差しは春のものに近い暖かさを持っていた。
「フィー君。無理言って、ごめんね?」
 セイルフィンは、隣にいるフィリスにすまなそうに謝った。
 彼女がこの時間に誘ったのは理由がある。
 今までとは違う風景を、一緒に見たかったから。
「いいえ、フィンさん」
 それを知ってかそうでないのか。フィリスはセイルフィンの言葉に続けた。
「夜もいいですが、昼の聖花祭は、貴方をしっかり目に映すことができますから」
 そう、優しく微笑み返した。
 セイルフィンは赤面しながら、慌てて話題を変えた。
「そ、そうだっ! 去年、寮の地下で見つけた迷宮っ! ……あのときの探索はとっても面白かったよね」
「ええ、最後には桜の種を見つける事ができましたね……」
 二人はたくさんの話をした。
 忙しくてなかなか2人で出かけられなかったことや、起こった事、楽しかった事など、全て。
 去年の事を振り返りながら、フィリスはふと気づいた。
「今年でランララも3度目ですね」
「ああ、そういえばそうだね」
 フィリスは改まった顔で言う。
「この2年間有難う御座いました。これからもよろしくお願いします」
「うん、また来年も一緒に参加しようね」
 2人は互いに掛け合った言葉に、嬉しそうな微笑みで頷きあった。

 気が付けば、陽も傾き始めてきた。
「そろそろ、戻りましょうか?」
 そう提案するフィリスにセイルフィンは。
「……あ、ちょっといい? フィー君、少し屈んで♪」
 フィリスを止めて、お願いするセイルフィン。フィリスは突然の申し出に困惑している様子。
「屈むって……」
「いいからいいから。ほら、早く」
 不思議そうな顔のまま、フィリスはセイルフィンに言われるままに屈んだ。
 セイルフィンは、そんなフィリスのマントを押さえ、悪戯っぽく微笑み……。

 ちゅ。

 それは、さえずりの泉に住む鳥が、何かをついばむようなそんな、淡い口付けであった。
「じゃ、帰ろっか♪」
 セイルフィンは照れながら、叫ぶかのようにそう告げると、さっさと丘を下り始めた。
「い、今のって……」
 突然のキスにフィリスは真っ赤になりながら、驚き、硬直していた。
「フィー君、早く早くっ!!」
 セイルフィンの呼ぶ声に、フィリスはやっと我に返る。
「はい、今行きます」
 僅かに頬を染めながら、普段は見せない、その幸せそうな顔で、セイルフィンの元へと向かう。

 3度目のランララ聖花祭。
 2人にとって、忘れられない想い出ができたようである……。


イラスト:霧生実奈