● 秘密の言乃葉

 女神ランララの木の下で、二人はいた。
 木漏れ日が暖かく、心地よい。

 誰かの前で無防備になるなんて、ついぞ経験のないこと。
 いや、長らく忘れていた。
 愛しい君がここにいて、笑っていて。
 それで、他には何が必要だろうか。
 ……ぁー……駄目だ、眠たくなってきた。
 春はまだ先だっていうのに、この凶悪な眠気は何だろう? せっかく、二人で居るのに……。

 エフォニードの膝枕の上で、ルクレツィアは凶悪な眠気と、激しい戦いを繰り広げていた。
 そんな彼の髪を、エフォニードは優しく梳いている。

 こうして大切な人の存在を感じる程、幸せなことは無い、です……。
 君はきっと……わたしが無くした片翼。
 出会って、もう大分経つ、けれど……。
 今でも……君に触れる度に愛しくて、君の一挙一動、君の一言にドキドキする。

「寝るかもしれない……俺」
 ルクレツィアは目を瞑って、そう宣言した。
 どうやら、凶悪な眠気に勝てなかった様子。
「……そういえば、ルークの寝顔、見たことないかも、です」
 ルクレツィアの髪を梳きながら、エフォニードはそう呟いた。
「俺はエフィの寝顔見たこと、たくさんあるけどね」
 一度、瞳を開いて、エフォニードの顔を見上げるルクレツィア。けれどもまた、すぐにその漆黒の瞳は閉じられる。どうやら、かなりの眠気のようだ。
「……ルーク?」
 思わずエフォニードはルクレツィアの顔を覗き込む。
 その気配に、ルクレツィアはまた目を開けた。
「……ね、エフィ。耳貸して?」

 君がいて、陽光があたたかくて。
 君が笑ってくれていて、風が心地よくて。
 たまには告げてみようか。
 『好き』じゃなくて………。

「いいですよ」
 そう答えながら、エフォニードの胸は、どきどきと高鳴る。
 自分の耳をそっと、ルクレツィアの口元に寄せた。
「愛してる」
 そのルクレツィアの囁きは、甘くエフォニードの心まで響き渡る。
 ならば、言葉じゃなく君に触れて……愛しさを伝えよう。
 二人は互いに微笑みながら、優しい口付けを交わした。
 穏やかな陽だまりの下で……。


イラスト:碧川沙奈